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一番さいあくだったのは、昼休みだ。弁当を食べる前にトイレをすませようと廊下にでたしゅんかん、廊下中を響き渡るゲラゲラ声。今日一テンションが下がった。存在がうるさい男、バスケ部部長上野四信 の笑い声だ。
そもそも俺にとってバスケ部というワードが無理だ。生理的に受けつけない。バスケ部という人種はやたらとぐいぐいくる。上野四信だけかもしれないけど、俺にとってバスケ部イコール上野四信だからしょうがない。
思い出したくもない今年の四月。人より頭ひとつ、いや、ふたつ大きい俺は「身長大きいイコール運動神経がいい」と思われ、バカみたいに勧誘をうけた。一番しつこかったのが、バスケ部。というより上野四信だった。
短い黒髪はスポーツマンらしくサワヤカ。つり上がった眉は意志の強さを表すように太くて長い。一点のくもりもない黒い瞳。下まつげが長くて、イケメンという軽い言葉より男前と言いたくなるハッキリした顔立ち。スクールカースト最上位グループだろうことがうかがえる圧倒的ポジティブオーラ。
ああ、無理だ。この人とは無理だと二秒で察した。だから、目を合わせたくなかったのに、ばっちりと合ってしまった。
「よーそこのお前、その身長ならバスケ部入らねえとな!」
入りませんと真顔で言ってもおかまいなし。上野四信はニカッと白い歯を見せ、昇降口までついて回ってきた。俺のライフはすっかりゼロ、その日は夕飯を食べずに爆睡をかました。
あの日から上野四信は俺が一人でいると全力で駆け寄ってくる。しまいには「よー、旺二郎! 身長伸びたんじゃね?」と呼び捨てされる始末。身長伸びてないし。たぶん。
とにかく上野四信とは目を合わせてはいけない。合わせたが最後、バシバシと背中を叩かれ、肩に腕を回され「今から昼? 一緒に食おうぜ!」と強制ランチタイムが始まる。コミュ力オバケこわい。
できるかぎり猫背になり、息をひそめ、いつも以上にオーラを無にして、どうにか上野四信に気づかれないようにトイレに行く。なんてむずかしいミッションだろう。どう考えても負け確定だ。気持ちがすでに負けている。上野四信のリア充オーラをはねのける強さが俺にはない。
「旺二郎じゃねえか! 今から飯か? 俺も混ぜろよー」
はい負け確定。げんなりしても肌が黒くてわかりにくい俺のバカ。美白になりたい。
上野四信はいつものように俺の肩に腕を回し、ニカッと歯を見せて笑う。
どうして俺に構うんですか。俺とあんたはまったくちがう人種なのに。口にだそうとして、やめた。そうだなと肯定されても、違うと否定されたとしても、傷つく気がしたから。
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