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二秒で決める_10

「っおー、じろ……っ」  四信先輩の両手を絡めとると、ぎゅっと握り返してくれるのがかわいくてますますキスを深めたくなる。  それにしても、いつもより唇が甘い。マンゴーの味がする。そうじゃなくても四信先輩の唇はおいしいのに、マンゴーの甘さにうっかり吸い寄せられ、うっかり舌で唇をこじ開けていた。 「ふ、ぅ……っだれか、きたら……っ」 「大丈夫、きっと誰も来ません。だから、俺だけを見ていてください」  根拠のない自信を口にして、四信先輩の舌裏をなぞる。やっぱりマンゴーの味だと口角を上げ、ちゅうと舌先に吸いついた。  びくびく。繋いだ指先から四信先輩の震えが伝わる。舌先に甘く歯を立てながら、チラリと四信先輩を見つめる。快感を堪えているのか、きつく眉根を寄せて頬を赤らめている四信先輩はどうしようもなくえっちだ。  どうしよう、興奮する。いや、している。このままだと勃起する。むしろ、もうしている。  どうにかして抑えなければと頭ではわかっているけれど、口は止まらない。熱くて甘い四信先輩の舌を食みながら、舌裏を舐め上げるのをやめられそうにない。 「っんくぅ……っお、じろ」  そのうえ、四信先輩はいやそうなそぶりを見せていない。むしろ俺の手の甲をさすさすと撫でてくるし、足をすりと絡ませてくるほど積極的。四信先輩がかわいすぎて、えっちすぎて、今晩どうにかしてしまいたい。  濡れた黒い瞳と視線が絡み合う。ばくばくばく、心臓が音を立てる。また深く口づけをしようとした瞬間、エレベーターの扉が開く。一気に現実に引き戻されたのか、離れていこうとする四信先輩の腰を掴む。 「……四信先輩、最後まではしませんから、四信先輩にさわってもいいですか」  自然と荒い吐息がこぼれ落ち、じっと四信先輩だけを見つめる。  きっといまの俺は四信先輩への欲情をまるで隠せていない雄の顔をしているだろう。目の前の四信先輩はほんの少し眉を下げ、すりと俺の頬を撫でた。 「……その顔ずるいわ。駄目なんて言えねえよ。旺二郎の好きにしてくれよ」  四信先輩の薄くてやわらかい唇がゆるく弧を描き、俺の耳元でちゅっとリップ音を鳴らした。どう考えてもずるいのは四信先輩のほうですけど!  ぼんっと火がでるほど顔が熱くなり、ちゅっと四信先輩の頬にキスを落としてから腕を引いてエレベーターをでる。部屋に着いたらまずは絵を見せて、明日の意気込みを聞いてから、イチャイチャしようと思っていたのに、すぐにベッドへ押し倒すと決めた。 「いまのは四信先輩が悪いですからね!」 「俺悪いこと言ってねえだろー、可愛い旺二郎に触られてえって俺も思ったし」  どうしてそんなにかわいいこと言うのかなこの人は! ここ廊下じゃなかったらいますぐキスしてますよ!  必死に眉を寄せて顔をしかめていないと顔がだらしなく緩んでしまいそうだ。爆発するのは部屋に戻ってからだ、部屋に入ったら四信先輩を抱き上げてベッドまで連れて行ってやる。 「っもうそれ以上は廊下で言わないでください、爆発する!」 「旺二郎の旺二郎が爆発すんの?」 「そうです。旺二郎の旺二郎が爆発します」 「それは困るわー部屋でイチャイチャしような」  余裕の顔をしてられるのもいまのうちですよ。  心の中で呟き、ポケットからルームカードを取り出してドアノブに近づける。鍵の開く音が聞こえるよりはやくドアノブをひねった。 「旺二郎焦りすぎだ……っ」  開いた瞬間、四信先輩を扉に押しつけ唇を押しつける。どうやら俺はベッドに行くことすら待てないくらい辛抱がたりないらしい。  ふっと笑い声が聞こえ、四信先輩はゆるく口角を上げて俺の首へと腕を回した。 「……ねぇ、四信先輩。俺の好きにしていいんですよね」  するりとシャツの中に手をすべらせ、四信先輩のお腹を撫でる。この間服の上からふれたところに、直接ふれている。やっぱり筋肉質だ。「今上野先輩腹チラした!」「マジでかっこよーー」興奮していた女の子たちの気持ちがわかる。いまの俺、死ぬほど興奮している。だけどごめんね、四信先輩ファンの子たち。俺は腹チラどころか、なでなでし放題。 「……おう。そのかわり、俺も好きにするからな。愛してるぜ、旺二郎」  ぐいっと後頭部を掴まれ、四信先輩に唇を啄ばまれる。いまのは不意打ちすぎると眉を下げると、四信先輩はどこか得意げに笑っている。 「俺も愛してますよ、四信先輩。だから、たくさんイチャイチャしましょうね」  体のラインをなぞり上げながら、鼻先を擦りつける。くすぐったげに笑う四信先輩に俺も口角を上げ、どちらからともなくキスを交わした。

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