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二秒で決める_09
手荷物からすべての洋服をクローゼットにかけても、考えはまとまらなかった。
四信先輩は明日から試合だ。ただの試合じゃない。インターハイだ。この日のためにたくさん練習をしてきた。その四信先輩を邪魔するわけにはいかない。だからキスだけで我慢するんだぞ、神谷旺二郎。
自分に必死に言い聞かせ、エレベーターに乗りロビーへと向かう。
すぅーっ、はぁー、すぅー、はぁー、深呼吸を繰り返し、胸をゆっくり撫で下ろす。よし、心が落ち着いた。
開いた扉から一歩踏みだすと「旺二郎!」愛しい四信先輩の声が聞こえ、ばくばくばくと心臓がけたたましく音を立てた。なんてちょろいんだ、俺の心臓。
「四信先輩待ちましたか」
四信先輩はロビーのソファーから立ち上がり、ぶんぶんと大きく手を振っていた。いまだに振り返すのは恥ずかしいけれど、それでも大好きな四信先輩からの挨拶だ。小さくひらひらと手を振り、歩み寄る。
「ぜーんぜん待ってねえよ。それにしてもスイートルームってすげえよな、どんな感じなの」
「なんかちょう広いです」
「すっげえ漠然! やっぱベッドとかも広いわけ?」
「えっ」
四信先輩は純粋に質問しているだけだというのに、声が裏返ってしまった。あまりに間抜けな声色で、四信先輩はなにやら察したのかにやにやと口角を上げる。
「どうした旺二郎、やらしいことでも考えたか」
四信先輩はゲラゲラと笑い、俺の肩へと腕を回した。
もちろん考えましたけど。だって俺たちつき合っているんですよ。キスも好きですけど、それだけじゃ足りないと思うほど四信先輩が好きなんですよ。頭の中でやらしい四信先輩の姿を想像して、おかずにしてますし。
ぐるぐる頭の中で言葉が巡る。だけど、言うわけにはいかない。我慢しなければと拳を握った。
「やらしいことは毎日考えてますけど、ちゃんと我慢します……だから、その、インハイが終わったら」
四信先輩と、えっちがしたいです。
四信先輩の耳元に唇を寄せて、こっそり囁く。じわりと四信先輩の耳が赤く染まる過程を目の前で見ているだけでむくむく欲望が膨らみそうだ。
ぐっと胸ぐらを掴まれ、黒い瞳と視線が絡む。照れと恥じらいを滲ませながらも、まるでコートの上にいるときのような激しさを瞳に浮かばせていた。その姿は、頭がくらむほどカッコいい。やっぱり俺の四信先輩は世界で一番カッコよくて、かわいい。
「おう、望むところだ。そのためにはぜってえ優勝しねえとな。優勝して、二人で気持ちよくなろうぜ」
俺のまねっこをするように、四信先輩も耳元で囁き返してくる。今度はきっと俺の耳が真っ赤に染まる番。
じっと四信先輩を見つめる。「どうした旺二郎」きょとんと目を丸めている四信先輩が憎い。いますぐにでもキスがしたくなっちゃったじゃないか。
無言で四信先輩の手を掴んで、エレベーターへと走りだす。「えっ、なに、どーしたマジで」四信先輩はなんにもわかっていない様子で首を傾げる。扉が閉まったことを確認すると、四信先輩の背中を壁に押しつけるようにして唇を塞いだ。
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