10 / 10
第10話(了)
出雲は俺から視線を逸らさず、真っ直ぐに目を見つめたまま話す。
「僕……照と一緒に居ると、楽しいよ」
「でも、さっき……ッ」
「だから、さっきので察して欲しいんだけど」
出雲の表情が、真剣なものから変わった。
少し照れくさそうな、ムッとしたような表情をしている。
「照は、ゲームとかしないけど……でも、一緒に居て……楽しい」
俺の肩に置かれた出雲の手が、小さく震えた。
どんどん恥ずかしそうにしていく出雲の表情から、目を逸らせない。
「照は、僕の……特別、なんだけど」
声が、少しずつ小さくなる。
聞き間違いかと疑いたくなる程小さな声だったけど、確かに聞こえた。
「……出雲、それって――」
「本当、照って馬鹿だし鈍いし馬鹿」
「えっ」
何故か、二回も『馬鹿』と言われてしまう。
今度は俺が目を丸くしていると、出雲が恥ずかしそうに視線を逸らす。
「特別じゃなきゃ……わざわざ、家に呼んだりするわけないだろ」
休みの日も毎日一緒に居たから、知っている。出雲は、俺以外の誰かを家に呼んだり、部屋に招いたりしない。
だからこそ……出雲の言葉が、すんなりと胸に届いた。
「……い、づも……俺……ッ」
「何、馬鹿」
「うっ、ひどいぃ……ッ」
「うわっ、更に泣くなって!」
出雲の指が、俺の目元を乱暴に拭う。
痛いくらいだけど、全然嫌じゃない。
――むしろ……。
目元を拭っていた指が、頬に添えられた。
「照、目……閉じて」
出雲の声に、ビックリして目を見開きそうになる。
それでも俺は、言われた通り……ギュッと目を閉じた。
部屋の中には、雨音だけ。
出雲の手が少しだけ動き、そして……温かいものが、触れる。
――口の端に。
思わず目を開けると、出雲が眉間にシワを寄せていた。
「意外と、難しいな……」
そう呟いた出雲に、俺は思わず吹き出してしまう。
「ぷっ……はははっ!」
「何笑ってるんだよ、馬鹿」
「だって出雲……ふふっ、キス下手かよって~!」
「何だと、この馬鹿……!」
出雲が両手で力強く、俺の頬を挟み込む。
それによって唇が勝手に突き出され、タコのようだ。
「次は外さない」
「ん~っ!」
「動くなっ」
固定された俺の顔に、もう一度出雲の顔が近付く。
突き出した唇に、出雲の唇がチョンとぶつかる。その感触が可笑しくて、もう一度吹き出してしまった。
「ぷふーっ!」
「笑うなって――あっ」
突然、パソコンから起動音が聞こえだす。
停電が直ったんだと分かった出雲は、素早く立ち上がった。
「電気付けたら、もう一回リベンジするから」
「ゲーム?」
「本当、照って馬鹿だな」
立ち上がって、出雲は部屋に明かりを付ける。
「まぁ、そういうところがいいんだけどさ」
そう言って笑った出雲は、どんな明かりよりも眩しく見えた。
ともだちにシェアしよう!