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第1話
煌めくような青い髪。
深海のように濃い青の瞳。
すっと通った鼻。
つりあがった眉。
そして、対照的に少し下がった目。
俺が彼に初めて会ったのは、俺が四才の頃。
誰よりもキレイで、誰よりも近寄り難くて。
そして、誰よりも優しくて暖かい彼に恋をした・・・・。
「大平小波 くんっ、ずっと好きでした! 付き合ってくださいっ!」
「あ、ごめん。俺、好きな人がいるから。」
真っ赤な顔で思いの丈を告げてくれた女子に、キッパリスッパリ、俺も自分の気持ちを告げる。
俺にとって、同年代の女の子はただの友達にしか成り得ないから、正直に言ってるだけなんだけど、周りには不評だ。
思いやりが無さ過ぎるって。
「で、でもっ、いつもそう言って断ってるって聞いたけど、それらしい人、周りにいないじゃないっ。」
「クラスメイトとかじゃないからね。もうずっと片想いなんだ。うーん、足掛け十三年? うわ、我ながら長いな、これ。」
自分でツッコミながら、早く話が終わらないかなあ、なんて考える。
大抵の子は好きな子がいるって言うと、大人しく引いてくれるんだけど、たまに食い下がる子もいる。
それが面倒で堪らない。
「え、それって四才から? 嘘でしょ。」
「嘘じゃないよ。出会ってからずっと好きなんだけど、おかしい?」
好きなものは好きなんだから、仕方ないじゃないか。
相手にされてないけど、一度しか触ってくれてないけど、諦められないんだから。
「そういうことだから、ごめんね。」
これ以上の会話はいらない。
さっさと切り上げてその場を立ち去る。
すぐ近くに親友・鳥井東太 の姿が見えた。
様子を見ていたのが丸わかりだ。
近くまで行くと、すぐにダメ出しをされる。
「相変わらず優しくないなあ。嘘も方便って知ってるか?」
「面倒なのはキライだ。俺は真実しか言ってないのに、嘘って言われたんだぞ?」
そう東太 に言えば、ため息混じりに返された。
「普通はそう思うだろ。長すぎるんだよ、片想い歴十三年て。」
「仕方ないじゃん。振り向いてもらえなくても、諦められないんだから。」
「・・どんな相手だよ、それ。」
そう訊かれても、詳しくは答えられない。
だって、絶対に信じてもらえないから。
「年上の人だよ。すごい美人。」
「えー、写真とかないのかよ。」
「写真嫌いだから撮らせてくれないんだよねー。」
なんて。
撮らせてくれないんじゃないんだ。
うん。
撮らせてはくれるんだけどね。
何度試しても、その姿は写らないんだよね。
「そんなことより、早くご飯食べなきゃ昼休み終わっちゃうよ。」
東太 の脇をすり抜けて学食へと急ぐ。
競うようにしながら先へ進むと、青い髪が揺れるのを目の端に捉えた。
それは俺にしか見えない、俺の大好きな人が持つ色だ。
ポーシィ・・・・
そっと愛しい人の名を心でつぶやく。
それだけで姿を隠していても、近くにいるのが分かる。
何だい? 小波 ・・・
穏やかに心地よい声が響く。
好きだよ、ポーシィ
そう続けると、返事が返ってくるんだ。
困ったように、戸惑ったように。
必ず同じ文言で。
わかってるよ、私の可愛い小波 ・・・
いつもと同じ答なのに、耳元で聞こえた声に違和感を感じた。
何だろう?
何かが違う。
ポーシィ?
思わず名前を呼んだ。
でも、ポーシィの反応はなかった。
「おーい、小波 ~、どうした?」
東太 が、立ち止まった俺に気付いて声を掛けた。
「あ、ごめん。何でもない。」
いけない。
周りに変に思われないようにしないと。
俺は感じた違和感を気にしながらも、東太 の所に走っていった。
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