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第2話
面倒なタイプだと思ったあの子は、更に上をいく面倒、いや、かなり迷惑なタイプだったらしい・・・・。
彼女の告白を断った翌日には、すっかり俺の噂は広まっていた。
しかもそれは、とんでもなく面倒臭い方向に内容が足されていた。
① 大平小波 は、十三年間、片想いをしている。
これは間違っていないから、特に問題はない。
② その相手は、小学五年から急激に仲良くなった、いつも一緒にいる友人である。
・・・・なんだそれ。
あれか?
今、隣りで惰眠を貪っている、こいつのことか、それ?!
ありえないだろう・・・・
「あはは、やっぱり嘘なんだ~。」
目の前でクラスメイトが笑う。
どうやら、クラスの皆は信じていないようだ。
「当たり前だろ。東太 は友達だよ。第一、十三年前には海外にいたんだぞ、こいつ。」
だから十三年前から好きな相手が、東太 な訳がない。
五年生から仲が良くなった、って当たり前だ。
東太 が日本に来たのが四年生の終わりなんだから。
「だよね。俺だって小中一緒だったから知ってるよ。何、これ、小波 ちゃん、振った相手に逆恨みされた系?」
そう言われて考える。
「うーん、多分そうなんだろなぁ。正直に話してお断りしただけで、こうなるとは思わなかったよ。」
「あ、片想いの方は本当なんだ。」
「・・・・悪いかよ。」
「ぜーんぜん! むしろ好感度アップしたんじゃない? 一途に一人を想い続けるなんて、女の子のハート、鷲掴みなんじゃん?」
そういうものなのか?
俺はずっとポーシィしか見てなかったから、そういうのはよく分からないんだよな。
っていうか、別に女の子に好かれてもなあ。
「なあ、そんなに大平が好きな相手って、どんな人なんだ?」
「どんなって・・・」
「年上の超美人だってよ。」
隣りで寝ていた筈の東太 が、眠そうに欠伸をしながら話に割り込んできた。
「年上?!」
「美人って、超美人って、どれ系の美人だ?!」
クラス中が騒がしくなる。
おいこら、勝手に俺が言ったことを話してんじゃねぇ!
恨みがましく東太 を見ると、全く悪いと思っていないばかりか、周りの騒ぎを楽しそうに見ている。
「情報提供して、噂を塗り替えればいいんだよ、小波 。」
にやりと笑った顔で、俺を促す。
もっと言えってことらしい。
「あー、すごく優しい? めちゃくちゃ優しい? 」
「お前・・・優しい以外に言えないのか?」
そんなこと言われても。
流れるような煌めく青い髪がすごく綺麗で、時々気怠げな瞳がとってもとっても色っぽい、なんて口が裂けても言えない。
普段はヘタレていても、ここぞという時には、凄みを増した顔に威厳のある口調になって、そのギャップがいいんだ、なんてもっと言えない。
「好き過ぎて、一言じゃ言えないよ。あの人は特別な人だからさ。」
ポーシィを思ったら、最後の方は苦しくなってきた。
つい顔に出たのは分かったけど、周りがどよめいたことには驚いた。
何だ?
何で皆、そんな気遣うような、憐れむような変な目で見るんだよ。
「分かった。もう何も言うな。うん。本気なんだな。俺たちは応援するから!」
ちょ、何?!
「な? これで噂の上書き完了だ。」
「えっ?」
訳が分らない。
どうしてそうなるんだ?
「これで俺との話は、綺麗さっぱりなくなるさ。その代わり、お前がどんなに苦しくて切ない恋をしてるのか、が加わったぞ。」
にやりと笑った東太 は、欠伸をするとまた眠る体勢に入った。
噂の方は何とかなりそうで少し安心したけど・・・・・騒がしい教室で、ふと気付いた。
そういえば、昨日の昼以降ポーシィの気配がない。
ポーシィ?
いつものように呼んでみる。
だけど、返事はない。
ポーシィ? どうしたの?
やっぱり返事は返ってこない。
どうして?
今までずっと、どんな時でも側にいたのに、どうして?
結局、その日、ポーシィは俺の呼び掛けには応えてはくれなかった。
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