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第3話

ポーシィの気配がしなくなってから、もう少しで一週間になる。 あの日から、青い髪の一筋さえ目を掠めることはなくなり、声も聞こえなくなった。 長い間一緒にいたから、側にいないのがとても変な気がして落ち着かない。 いつまでも共にって言ってたじゃないか・・・・ 契約した時、確かにそう言ってくれたのに。 ポーシィがいないだけで、今まで楽しかった学校生活も、すっかり色褪せてつまらないものになっていた。 「大丈夫か、小波(こなみ)?」 東太(とうた)が心配そうに声を掛けてくる。 多分、俺、すごく顔色悪いんだろうなぁ。 「うーん、大丈夫・・・・。」 とりあえずの返事に、東太(とうた)が溜息をついたのが聞こえた。 「大丈夫じゃないだろ? 酷い顔して。何があったんだよ。」 「・・・・・何って・・・・。」 今話したら、絶対に涙が止まらなくなる。 だから言えない。 そんな俺の気持ちを察してか、東太(とうた)はさりげなく話を変えた。 「そういや、最近できた人気の喫茶店、学校に近いんだよ。帰りに寄ってみようぜ?」 「でも・・・・。」 そんな気分にはなれない。 ポーシィが側にいないと、何にも楽しくないんだ。 散々彼のことを『ヘタレ』って言ったけど、自分の方がそうだったみたいだ。 「でも、じゃない。もう決定な。」 東太(とうた)に強引に言われ、否応なしに放課後の予定が組まれてしまった。 喫茶店? そんな気分じゃない、全然、全く、これっぽっちも。 でも、長い付き合いで、これが東太(とうた)なりの気遣いなのは分かってる。 だから我慢して付き合おう。 そう思えるくらいの余裕は、まだ残ってたみたいだ。 ねぇ、ポーシィ、俺の余裕が残ってる内に戻ってきてよ・・・ 俺がぼんやりとしている内に、午後の授業が流れていき、あっという間に放課後になっていた。 そして気が付けば、東太(とうた)に腕を引っ張られる形で噂の喫茶店へと向かっていた。 「喫茶店なのに、シーフード料理も出してるんだってさ。小波(こなみ)、魚介類好きだろ?」 「あ、うん。」 だって、ポーシィが美味しい調理法を教えてくれたから。 いつの間にか肉より魚介類が好きになってたんだ。 「あと、店主が凄いらしい。」 「・・・え?」 何だ、それ。 どう凄いんだ? 「凄い美形なんだとさ。目が覚める様な。」 ・・・・そんなこと言われても、俺にはポーシィ以上の美形なんて浮かばない。 うん。 今の俺にはポーシィしか興味ないや。 「あ、ほら、ここだ。」 東太(とうた)が足を止めたそこには、小さな、一見して店だとは分らない外観の建物があった。 主張しすぎない白い看板に、鮮やかな青で店名が書かれている。 『Posey』 ・・・・・・・ え? これ、まさか・・・・。 「Posey・・・・ポーシィ、かな。小波(こなみ)、入るぞ。」 やっぱりそう読むよね? 何だか益々落ち込んできた。 今の俺には、その名前を聞くのは辛いよ。 でも、今更帰るとも言えず、仕方なく後に続いて店内に入った。 「いらっしゃいませ。」 店主のものらしい低い声が迎えてくれる。 そういえば店主は凄い美形なんだっけ。 特に興味はないから、ま、いいや。 落ち込んできた俺には、人の顔見てる余裕なんて全然ないし。 「あちらのお席へどうぞ。」 そう言われて進んでいく東太(とうた)の後をぼんやりしたまま付いて行くと、突然その足が止まった。 危うくその背中にぶつかりそうになる。 「何だよ、東太(とうた)。急に止まるなよ、危ないなぁ。」 自分がぼんやりしていた事は棚上げして、文句を言う。 どうやら目の前の東太(とうた)は何かに戸惑っているようだ。 何だろう? 「・・・・ここ、予約席になってる・・・。」 は? 予約席? 思わず周りを見回すと、狭い店内の他の席は満席の状態だ。 東太(とうた)の様子だと自分で予約した訳でもなさそうだし、ここでいいのか? もしかして店主の勘違い? そんなことを考えていたら、すぐ近くから聞き覚えのある落ち着いた声が聞こえてきた。 「そちらへどうぞ。小波(こなみ)。」

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