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【01/優斗】キスから始まる①
窓から流れこむ風が、頬を優しく撫でていく。葉擦れの音を聞きながら、ゆっくりと目を覚ました。
唇に感じる柔らかな感触に、浮遊感と心地よさを感じる。目の前にはサラサラと栗色の髪が風に揺れていた。春の陽射しを受けて、キラキラと光る髪。綺麗だなと思った。でも、近すぎるような……
「っ!」
キスをしている、そう気付いた時には、がたんと音をたてて立ち上がっていた。
「なっ……え?」
慌てて口元をおさえる。
初めての感触。それがなかなか消えてくれないことに戸惑いつつ、目の前の人物を凝視した。グレーのブレザーに、松葉色のネクタイ……県内で1番偏差値が高い、北川高校の制服だ。
「そんなに驚いた?」
一瞬目を見開いた彼は、すぐに微笑み、親しげに話しかけてくる。
「寝顔が可愛くてつい、ね」
可笑しそうに笑う彼。僕のことを知っているような口ぶりだ。
「周りの人が見てる。とりあえず座りなよ、ね?」
そう言われて辺りを見回し、ここが図書館だと知った。そして、確かにこちらを見ている人がチラホラ。
「あれ? 僕……確か教室で……」
教室で和馬の部活が終わるのを待っていたはずなのに、なぜ図書館にいるのか? それに知らない男と……男同士でキスなんて、何で……。
「ユウ?」
名前を呼ばれて我に返る。そして、急に怖くなった。身に覚えのない場所、人、行為……とにかくこの場から逃げたい気持ちでいっぱいになり、気付けば走り出していた。
「ユウ!」
後ろで声がする。でも僕は、振り返らずに走り続けた。
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