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【01/優斗】キスから始まる②

 オレンジ色の教室。自分の机をそっと撫でる。 「ここで寝ていたはずなんだよな……」  こうして教室に戻ってみると、さっきの出来事は夢だったような気がしてくる。でも、リアルに思い出される唇の感触が、夢じゃないと騒いだ。手の甲で唇を拭い、気分を変えようと外へ目をやる。  窓から校庭を眺めると、野球部と陸上部が片付けをしているのが見えた。和馬の部活も終わったかもしれない、そう思った時、教室のドアが開いた。 「優斗、帰るぞ」  剣道部の荷物は大きい。肩にくいこむ重そうな荷物だが、和馬は涼しい顔をしていた。 「あ、和馬。お疲れさ、ま……」  和馬の顔を見た途端、安心して気が緩んでしまった。どうやら今日のことは、自分が思う以上にショックだったようだ。 「ちょっ、ど、どうした?」 「ご、ごめん……」  恐る恐るという感じで、和馬の指先が頬に触れる。 「なんで泣いてんの?」  和馬の指先が、僕の涙で濡れた。 「変なことがあって……」  慌てて涙を拭う。そして、不安な気持ちを抑えるように、シャツの胸元を掴んだ。 「だから、和馬の顔を見たら安心しちゃったんだ」  ヘラヘラと笑う僕の顔を、和馬は眉根を寄せて覗き込んでくる。 「大丈夫か?」 「うん、多分……」  男とキスをしたなんて話して、嫌われたくない。それに親友の和馬には、ただでさえ家のことで迷惑をかけているから、余計な心配をかけたくなかった。 「それより、今日もいいかな?」 「え? あぁ、別に。いつでも泊まれよ」 「ありがとう」  なるべく笑顔でそう言った。 「夕飯は何?」 「そうめん」 「えー、もっとこってりしたやつにしようよ」 「そうめん」 「……わかった、そうめんでいいよ」  スポーツ特待生の和馬は、近くの学生マンションで一人暮らしをしている。僕は1年の夏頃から、よく泊めてもらっていた。 「あとで話せよ?」 「うん」  バシッと叩かれた背中に、和馬の優しさを感じて、自然と口元が緩んだ。

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