23 / 84
【08/優斗】報告①
「優斗……」
「ごめん、泊まってもいい?」
蒼生ってやつの地図は酷かった。おまけに超田舎で、道を尋ねたくても人はいないし、どんどん暗くなるしで、本気で野宿を覚悟するほど迷った。
和馬の部屋へたどり着いた頃には、すっかり夜になっていた。
「入れよ」
「うん、ありがとう」
部屋に入ると、だしの香りが優しく漂っていた。なんだかほっとする。
「うどん食うか?」
「うん。和馬はうどんとそうめんが本当に好きだよね」
「あんま噛まなくていいし、旨いだろ」
「そうだけど……普通は2回連続食べたくらいで飽きると思うよ」
ベッド脇に鞄を置き、手を洗い、着替える。そうこうしているうちに夕飯の準備は整っていた。
「とりあえず食おうぜ」
「うん、いただきます」
「いただきます」
ちくわだらけのちくわうどん。和馬の大好物だ。
静かに食べながら、考えた。僕が二重人格だと言ったら、和馬はどんな反応をするだろうか。
そして、そのもう一つの人格が、同性の恋人を作っていたと言ったら……。
和馬を盗み見る。
もし、気持ち悪いと思われてしまったら? もうここには来られなくなる。
和馬と一緒にいられなくなるのは嫌だ。でも黙っていたら、いつか迷惑をかけるかもしれない。
だから今、ちゃんと話しておくべきだし、正直今日のことを吐き出したい気持ちも強い。
だけど……どう話す? どこまで話す?
「ねぇ和馬」
「ん?」
「男が男と付き合うのって、どう思う?」
「ブッ!」
和馬がうどんを吹き出した。
世間話のように、ごく自然に話したつもりが、早速失敗したらしい。
「ちょっ、汚いなぁ!」
「優斗が変なこと言うからだろ?」
「だって、気になったから……」
「なんで急に?」
「僕さ、深層心理でそっち系なのかもしれないと思って……」
寝ている間に彼氏を作っていたという事実。
二重人格はその名の通り、人格が2つってことだ。つまり、僕だけど僕じゃない。
だから、あれはもう1つの人格の性的指向であって、僕も同じとは限らない。
でも、僕じゃないけど僕でもあるわけで……深層心理で僕は男性を求めているんじゃないかと不安になった。
「ごめん、変なこと言った。引いたよね?」
「い、いや、人それぞれだし別に……」
「え、本当? じゃあもし僕に彼氏がいても平気?」
「それは無理」
和馬は即答した。眉根を寄せた表情に、胸がチリっと痛む。
「だよね……やっぱ、キモいよね……」
「あ、いや、そういう意味じゃなくて……」
「じゃあ、どういう意味だよ」
「優斗に恋人が出来たら嫌だって意味だ」
「え、なんで?」
和馬は困ったように額に手をあてた。
「なんで嫌なの? どうせ和馬は部活で忙しいし、僕に恋人がいても関係は変わらないじゃん」
「好きだからって言ったらどうする?」
「えっ!?」
「オレが好きだと言ったら、嬉しいか? 困るか? どうだ?」
「あ、いや……」
本気なのか冗談なのか分からない。
言葉を失い、下を向いた僕の頭に、和馬の大きな手のひらがポンっと乗った。
「この話はこれで終わり、いいな?」
「う、うん」
結局、僕は何が言いたかったのだろうか?
話の導入を間違えたことだけは確かだった。
ともだちにシェアしよう!