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【08/優斗】報告①

「優斗……」 「ごめん、泊まってもいい?」 蒼生ってやつの地図は酷かった。おまけに超田舎で、道を尋ねたくても人はいないし、どんどん暗くなるしで、本気で野宿を覚悟するほど迷った。 和馬の部屋へたどり着いた頃には、すっかり夜になっていた。 「入れよ」 「うん、ありがとう」 部屋に入ると、だしの香りが優しく漂っていた。なんだかほっとする。 「うどん食うか?」 「うん。和馬はうどんとそうめんが本当に好きだよね」 「あんま噛まなくていいし、旨いだろ」 「そうだけど……普通は2回連続食べたくらいで飽きると思うよ」 ベッド脇に鞄を置き、手を洗い、着替える。そうこうしているうちに夕飯の準備は整っていた。 「とりあえず食おうぜ」 「うん、いただきます」 「いただきます」 ちくわだらけのちくわうどん。和馬の大好物だ。 静かに食べながら、考えた。僕が二重人格だと言ったら、和馬はどんな反応をするだろうか。 そして、そのもう一つの人格が、同性の恋人を作っていたと言ったら……。 和馬を盗み見る。 もし、気持ち悪いと思われてしまったら? もうここには来られなくなる。 和馬と一緒にいられなくなるのは嫌だ。でも黙っていたら、いつか迷惑をかけるかもしれない。 だから今、ちゃんと話しておくべきだし、正直今日のことを吐き出したい気持ちも強い。 だけど……どう話す? どこまで話す? 「ねぇ和馬」 「ん?」 「男が男と付き合うのって、どう思う?」 「ブッ!」 和馬がうどんを吹き出した。 世間話のように、ごく自然に話したつもりが、早速失敗したらしい。 「ちょっ、汚いなぁ!」 「優斗が変なこと言うからだろ?」 「だって、気になったから……」 「なんで急に?」 「僕さ、深層心理でそっち系なのかもしれないと思って……」 寝ている間に彼氏を作っていたという事実。 二重人格はその名の通り、人格が2つってことだ。つまり、僕だけど僕じゃない。 だから、あれはもう1つの人格の性的指向であって、僕も同じとは限らない。 でも、僕じゃないけど僕でもあるわけで……深層心理で僕は男性を求めているんじゃないかと不安になった。 「ごめん、変なこと言った。引いたよね?」 「い、いや、人それぞれだし別に……」 「え、本当? じゃあもし僕に彼氏がいても平気?」 「それは無理」 和馬は即答した。眉根を寄せた表情に、胸がチリっと痛む。 「だよね……やっぱ、キモいよね……」 「あ、いや、そういう意味じゃなくて……」 「じゃあ、どういう意味だよ」 「優斗に恋人が出来たら嫌だって意味だ」 「え、なんで?」 和馬は困ったように額に手をあてた。 「なんで嫌なの? どうせ和馬は部活で忙しいし、僕に恋人がいても関係は変わらないじゃん」 「好きだからって言ったらどうする?」 「えっ!?」 「オレが好きだと言ったら、嬉しいか? 困るか? どうだ?」 「あ、いや……」 本気なのか冗談なのか分からない。 言葉を失い、下を向いた僕の頭に、和馬の大きな手のひらがポンっと乗った。 「この話はこれで終わり、いいな?」 「う、うん」 結局、僕は何が言いたかったのだろうか? 話の導入を間違えたことだけは確かだった。

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