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3.レン

最初のうちは、国はうまく回っていた。 元々素質の高いニコと、リーワスで宰相をしていたセドリード。 セドリードの手腕は他国に響くほど評価が高かったから。 しかし一年を越えたころから次第にまた、きな臭くなっていく。 ちょうどそのころだ、ニコが病気だという噂が流れ始めたのは。 議会にもほとんど顔を出さない。 ほぼウォルフローンに閉じこもりきりで、セドリード以外傍に寄せ付けない。 セドリードの愛娼に成り下がってるという話を聞いたのもこの頃。 重圧に耐えかねて、ニコが折れてしまったことはすぐにわかった。 何度も何度も、ニコに会えないかと連絡を取ったが繋いですらもらえなかった。 加速していく噂話と共に傾いていく国。 前回の騒動からまだ日が浅いため、国民にニコを弾劾する気力はない。 苛立ちを募らせながらやっとのことで面会したニコの口から出たは、明確な拒絶の言葉。 ニコから傍にいてほししいと乞われたとき。 その手を振り払わなければこんなことにはならなかったのだろうか。 後悔ばかりが頭を占める。 ニコが飼っている黒猫の名が、ロータスの略だと知ったのはずっと後のこと。 ロータス、蓮。 俺の名が、外国の言葉で意味するのもやはり、蓮。 ニコが昔、教えてくれたのだ。 しかも、ニコはよく俺のことを、黒豹のようだと云っていた。 そういえば名の話になったとき、ニコはこうも云っていた。 「〝レン〟っていうのはね。 シナの言葉で〝蓮〟って意味なんだよ。 おもしろいのはね、同じ音でほかにも意味があって、そっちは〝恋〟、なんだよ」 ニコの目が眩しそうに細められ、そっと手が俺の髪にふれる。 「レンはどっち、だろうね」 するりとニコの手が離れ、間抜けにもじっと顔を見つめてた。 なぜかニコの顔は酷く艶を帯びていて。 ……キス、したい。 そんな気持ちを、両手を握りしめて抑え込むのに精一杯だった。 あのときニコの言葉の意味をもっと考えていれば。 それだけじゃない。 いくつもいくつも運命を変える分岐点はあったのに、全て間違った答えを選び、結果はこうだ。 失ったものを悔やんでも、間違った答えを悔やんでも、取り戻すことはできない。 それにもう、俺の選ぶ選択肢はひとつしか残されていない。 最後の選択は……きっと間違わない。 【終】

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