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梅雨明け
一年前の梅雨の季節。
僕は好きだった男に告白し、フラれた。
「男同士とか有り得ないだろ。お前おかしいって」
って言われて、玉砕した。
もう、どうしても涙が止まらなかった。
でも、あんな事を言われて傷ついて泣いてしまう自分が嫌だった。ムカついた。
だから、涙を隠す為に僕は持っていた傘もささず。ゆっくりした足取りで外を歩いた。
そんな僕の隣を通り過ぎる人達は、冷ややかな目で僕を見て、ひそひそと陰口をたたく。
別に構わない。
だって僕は元々おかしな奴なんだから。
男なのに男が好きな、気持ち悪い奴なんだから。
「それでいいよ。好きなもんは好きなんだ」
僕は変わらない。
このままずっと、独りになっても、僕は僕のまま生きてやる。
「ま、待って!!」
「……は?」
ずぶ濡れになった俺の腕を握ってまで引き止めてきたのは、冴えないただのおっさん。
なんか目は死んでるし、身体も男にしては細い。髪はふさふさみたいだけど、明らかに疲れ切ってるって感じの人。
「え、なに」
「そ、その……」
なんかもじもじしてキモイし、ここは逃げた方がいいかな?
なんて考えていると、オッサンは勢いよく傘を差し出してきて、こう言った。
「か、風邪ひくんで!傘あげます!」
「……え?」
差し出してきた傘を手に取って、最初に思ってしまったのはこうだ。
ーー変な奴。
でもそれは僕も同じ。
きっと通りすがった人達は、僕を見てそう思ったはずだ。
けれどこの人だけは、そんな僕に傘をくれた。
ーー変な奴。
だけど、嬉しかった。
「有難う」
あの人がくれた傘の中で、僕はずっと涙を流しながら家に帰った。
「平田さん。僕はあの時からずっと貴方の事、好きだったんですよ」
僕の横ですやすやと眠っている平田さんの頬を撫でながら、窓の外を眺める。
「雨、止んだな」
どうやらようやく。梅雨は終わったらしい。
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