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第4話
「これは絶対良くない。流石に分かる。熱も出してないのに急に早退するなんて……他の人達になんて言われるか」
「大丈夫ですよ平田さんは。だって手とか震えてましたし、実際顔色も悪かったんですから。ま、僕は仮病ですけど」
「また部長に怒られるよ?」
「明日から頑張るんで」
「そういう人ほど頑張らないよね……」
会社を早退してしまった俺は、何故かあれから染井君の家に招待され。今は温かいコーヒーをご馳走になっている。
気づけば、手の震えも治まっていた。
「それで、なんで俺を家に呼んだの?」
「え、セックスするためですけど?」
「不純!!会社早退した理由がセックスするためとか!!やっぱり間違ってるーー!!」
「あぁもう煩いです!そうですよ!今から僕達は悪い事をするんです。平田さんの本当の気持ちを聞くために」
シャツを脱ぎ捨て、上半身裸の状態になっていた染井君は、俺をベットに引き連れ。そのまま押し倒してきた。
ギシッと軋む音に、思わず生唾を飲み込む。
ベットからは染井君の匂いがするし、瞼を開けば染井君のほどよく鍛えられて引き締まった身体が見えてしまう。
耳を塞げばいいのか、目を塞げばいいのか、鼻を塞げばいいのかもう分からない。
「平田さん、真っ赤ですね。可愛い」
「可愛い言うな!!おっさんの俺に可愛いとかおかしいだろ!!」
「おかしくないです。僕は僕が思った事をただ口にしているだけです」
「うぅ。ど、どちらかっていると、可愛いのは染井君の方なのに」
「……へぇ。僕の事可愛いと思ってくれてたんですね」
「え!?あ、いや」
しまった。
つい本音が。
「その調子で、自分に正直になってください」
「ひっ!!ぁあっ」
少し荒っぽく服をめくられると、既にピンッと固く立ってしまっていた乳首を、かぷっと口に含まれ。ちゅ、ちゅっ、と音をたてながら吸われてしまう。
「ひらたはんって、てぃくび、よはいでふよね」
「な、舐めながらしゃべるなっぁあ」
だいたい、誰のせいで乳首が感じるようになったと思ってる。
「凄い……どろどろ」
「うっ、うぅうっーー」
またもやいつの間にかズボンも下着も脱がされ、露わになった俺のモノを、染井君はまるで分かっている様に指先で良いところを撫でて、くりくりと弄ってくる。
心臓が激しく動いて、身体は運動した後のように熱くなっていく。
しっかり息を吸って吐かないと、今にも達してしまいそうだ。
「これだけ濡れてたら、大丈夫かもですね」
染井君の言葉の意味を理解する暇もなく、少しだけゴツゴツした指は俺の尻穴にゆっくりと挿入されていく。
二回目ともいえど、この圧迫感と異物感にはまだ慣れない。
けど、それでも最初の頃より俺の身体は明らかに喜んでいるのが分かる。
何度も抜き差しされ、次第にもう一本増えた指で中を上下に動かされる。
その刺激に、快感に、俺はまるで「抜かないで」と言わんばかりに染井君の指をきゅっと締め付けていた。
「はぁ、んっ、あぁ……もう、だめっ」
「ねぇ平田さん。僕の事、好きですよね?」
「へっ?ひっ!あ、やぁ!」
「ほら、貴方の本当の気持ち。言ってくださいよ!」
「ぅっ、あっーー」
ずっと中を弄っていた指が抜かれたかわりに、もっと熱くて太い。染井君のモノが俺の中にゆっくりと侵入してきて、一気にずぶりと奥へ押し込まれた。
その瞬間。
びりびりとした電流みたいなものが、身体の中を走って俺の思考を停止させた。
「あっ、あぁっ!」
「ヤバい、すげぇいい……」
染井君もまた、俺の中に入って気持ち良くなってきたのか。俺の腰を掴んで、何度も何度も腰を振って中を掻き乱していく。
おかげで、俺の醜い喘ぎ声が部屋に響いて煩い。
けど、それを恥ずかしいと感じる余裕なんてない。
ただ気持ち良くて仕方ない。
満たされていくようで安心する。
「うっ、んっ!あぁっ」
そうか、染井君は。
「はっ、ひらた、さん。言ってください。気持ちいいって、もっと欲しいって、僕が好きだって……言ってください」
これを聞きたかったんだ。
言えなかった、俺の気持ちを。
普通だとか、正しいだとか、常識だとか、そういうのに囚われていない。俺のただの想いーー気持ちを。
「す、き……かは、まだ分からない。正直に言うと」
「……そう、ですか」
「けれど!どうしてか君の事がずっと気になってしまうんだ。男、同士で……歳だって離れているのに……君とこうしてセックスするのが嫌じゃない。寧ろ……好き」
「平田さん」
「でも俺は、こんな俺が間違っているとは思えないんだ。だから、えっと……その……」
自分の気持ちなのに、うまく言葉にできなくて戸惑ってしまう。
偽るのはあんなにも簡単だったのに。本音を言うのはこんなにも難しい。
そんなもどかしい俺を察してくれたのか、染井君はぎゅっと俺を抱き寄せて、嬉しそうに微笑んでいた。
「有難うございます平田さん。今はその言葉だけで充分です」
染井君の温もりが伝わってくる。
誰かに抱きしめられるなんて久しぶり過ぎて、思わず恥ずかしくなってしまい。ふと目線を逸らすと、窓の外では未だに激しい雨が降り続いていた。
そういえば、去年のこの梅雨の季節。
染井君と同じように、傘もささず歩いている人を見かけたことがある。
俺はその人を見て、変な奴だ。と思った。
それはきっと他の人達も思っている事で、それが普通の感情だと思った。
それなのに俺は、何故かその人に傘を渡してしまった。
ーーまた、やってしまった。
最初はそう思った。
だっていつだって俺が思った普通で正しい行いは、全部皆にとっては間違いで悪でしかなかったから。
イジメを助けた時も、ポイ捨てを注意した時も、道路に飛び出した子供に注意した時も、俺は何故か睨まれ、怒鳴られ、冷たい目を向けられた。
だから俺は、他人の目を気にして、他人の空気をよんで、いつだって皆と同じ行動をとっていた。
なのに。
どうしてだったか、あの時。
雨の中ずぶ濡れで歩いているその人を放っておけなくなってしまった。
だから、また怒られる覚悟で傘を貸した。
その時の、その人が言った言葉は今でも頭に染みついている。
そんな記憶が蘇ってきて、思わず頬が緩んだ。
もしかすると、あの時の人ってーー。
「平田さん?」
「……染井君」
「なんですか?」
「いや、もしかすると伝える相手が違うかもしれないんだけど……」
俺は、あの人の言葉に救われた。
そして今回は、染井君に救われた。
だから、言いたかった。
あの時の気持ちを、今の気持ちを。
「有難う」
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