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7話
拭っても拭っても、汗が滴れる。熱されたコンクリートの熱が冷めないのと同じで、離れていても嵐への想いが薄れることはなかった。早く会いたい。
幸い、慰謝料の額でもめただけで、不倫相手と結婚を条件に離婚が成立した。
(早く嵐に伝えたいな)
嵐のアパート前で待っていると、彼が現れた。
「皐月さん、来るなら連絡してくださいよ」
「サプライズの意味がないじゃないか」
「中入りましょう」
寝室でいい、と呟き、スマートフォンに保存してある離婚届の写真を見せた。嵐が痛いほどの力で皐月を抱きしめ、
「俺こそ、子どもじみた言動をして、皐月さんを傷付けてごめんなさい。皐月さんは、芯が、あって、優しくてかっこよくて、俺にとってヒーローみたいな人だから、誰にもとられたくなかったんです」
潤んでいる瞳で見つめられ、吸い寄せられるように何度も口づけを交わす。久しぶりの嵐の匂いと肌の感触。少し温度が高く抱きしめると、すっぽり収まる胸の中が自分の居場所だと思える。
「ヒーローって大げさな。くたびれたオッサンの戯言ですよ」
「俺は救われました。現に、社労士の仕事をしているのも皐月さんのおかげです」
「弁護士になりたかったんじゃないんですか?」
「軽いかもしれないんですけど、もう一度皐月さんに会いたくて、追いかけてきてしまいました」
「うそ」
「給料計算などで呼ばれれば、もしかして会えるかもしれないでしょう」
髪を撫でられたり、身体を撫でやせていないか確認するように、いつくしむように手が触れる。
「でも、相談してほしかったです。俺だけ何も知らずに待っているのは、すごくつらかったし、寂しかったです。なんでも独りで抱え込まないでください」
俺のわがままな独り言だから、受け流してくださいと呟いた。
「ごめんなさい。私の問題だから、解決するまでは言わないでおこうと思ってたんだ。これからは、頼るよ。本当にごめん」
「誰よりも大事にしますから、付き合ってください」
「はい」
§
嵐の愛撫は熱心だった。「溶ける、やめて」と言ってもやめる気配はなく、前回の性急で痛みを伴うセックスを上書きするみたいに、身体中に跡をつける。
二度も絶頂に達し、疲れの色が見え始めた頃、長大なモノでゆっくりと感じる部分を刺激されながら貫かれる。
「あああっ、……っは――――」
のどがかれて痛いのに、気持ち良くて声を抑えられない。触れる指先が優しくて、愛情が伝わってくる。
「あらし、嵐。好き」
「もっと言ってください。好きです、皐月さん」
「好きだよ、嵐。離さないで」
「離しません」
うわ言のように、好きと言うと、愛撫や嵐自身を包む内壁がキュッと締り、ますます硬く大きくなる。ぬるま湯につかったような愛撫はやがて激しくなり、一つの頂点を追い求めて、二人の身体の動きが激しくなる。
しばらくは息ができないほどの快楽に胸を喘がせる。
雨の中、出会った彼と再会できて、自分を偽るのをやめて、素直になれた。
彼に溺れたままでもいい。愛情を計るより、愛したい。だって、確かな愛情がそこにあるから。
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