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異色な空気が漂う風俗界隈を、松原 和志 はげんなりとした気持ちで中須の背を追っていた。
道の両端には、木造の長屋と民家のような建物が立ち並んでいる。
各民家の玄関先は広く開け放たれ、まるで水槽のように外から覗ける作りになっていた。
玄関ホールには女と老婆がいて、我が物顔で過ごしている。
女は道行く男たちを誘うような眼差しを時々送っては、真紅のキャミソールから覗く、白く細い足をゆったりと動かしている。
「良い場所だろう。松原君。この場所はね、古い建物をそのまま使っているそうだよ。まさに吉原を彷彿とさせられるだろう」
脂ぎった顔を更に汗で湿らせている中須は、道行く男と変わらないギラついた目を周囲に向けている。
「……そうですね」
松原は中須の後ろを歩きつつ、こっそり溜息を漏らす。
初夏とはいえ、夜にまで暑さを残している。夏用のスーツに変えてはいても、暑苦しいことには変わりない。
「どうしたんだね? ここの女たちは器量良し、技量も良しの一級品ばかりだ。外れはないから安心しなさい」
突然立ち止まり、中須が振り返った。浮かない表情の松原を見て何を誤解したのか、見当違いの励ましの言葉をかけてくる。
「いえ……そうではなくてですね」
取引先の重役に対して、こんな趣味は持ち合わせてはいない、自分で好きにやってくれだなどと言えるはずがない。
松原は無理矢理口角を引き上げた。
「なんだね。あーなるほど。そういうことか」
何やら独り合点したらしい中須が、重たそうな頬の肉を持ち上げ、不気味な笑みを零す。
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