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「そうかそうか。案ずることはない。ついてきなさい」
中須はそう言って、小柄ながらも突き出たお腹を揺らしながら、意気揚々と歩き出した。
「どちらに行かれるのですか?」
嫌な予感しかせず、松原は慌てて中須を止めようと問いかける。
「なんの問題もない。安心しなさい。別の取引先にも、君のような者がいたんでなぁ。そいつにもそこを紹介したら、実に喜んでいた。君もきっと、気に入るはずだ」
ピンク色の光が投げかけられている大通りを曲がった中須は、その動きずらそうな体とは対照的にペースが一向に落ちる様子がない。
一抹の不安が松原の胸を覆い尽くすも、帰りますとは言えるはずもなく後を追う。
大手食品メーカーの商社勤務である松原は、新たな契約を結ぶべくして中須の元に駆り出されていた。全国展開のスーパーマーケットを経営している中須から契約が取れれば、かなりの量の発注が見込まれることになる。
三十歳にして主任という肩書きの元、こうして大口相手の接待をこなすことはもちろんある。それでも、せいぜいキャバクラかホステスに付き合わされるぐらいの話だ。
ましてや風俗だなんて、個人で行くべきところであって、取引先を連れていくような場所ではない。それに加えて、松原はこういう場所が苦手だった。
見ず知らずの相手と一夜をともにするだなんて、考えられない。相手する側もされる側も、双方の人間の考えることが松原には理解しがたいことだった。
どんよりと重たい気分を抱えていた松原は、突然立ち止まった中須に危うくぶつかりそうになり慌てて足を止める。
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