17 / 136

17

「そのネクタイ――」 「えっ?」  唐突にネクタイを示され、松原は視線をネクタイに落とす。ワインレッドに白のストライプ柄が目に映る。 「今日は大手の営業じゃないのに、赤系だなんて珍しいな。普段はグレーとか、青とかだろ」  斉木に指摘され、松原は途端に居たたまれなくなった。脳裏を掠めるハルヤの言動。これではまるで、彼のお世辞を真に受けているように思える。  松原はこみ上げる羞恥心に歯がみした。 「……勘違いしていたんだ」  言い訳するようにコップを手に取り、水で口を湿らせる。 「別に良いと思うよ。普段は、冷たい印象なんだからさぁ。ネクタイは明るめのほうが、取っ付きやすいと思うし」  そう言って、斉木が盆を手に立ち上がる。 「そろそろ戻らないとな」  斉木に促されるように、松原も盆を片手に席を立つ。  ネクタイの色一つで、どうってことはない。たまたま気分で選んだのが、その色だっただけの話。そう言い聞かせ、二度と会うことのないハルヤの存在を頭の隅に追いやった。

ともだちにシェアしよう!