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「俺、昔は既婚者と付き合ってたことがある」  初めて聞いた告白に、松原は息を呑んだ。 「長くなるし、お前の相談がメインテーマだから割愛するけど、三年ぐらい付き合ったかな」 「……それはいつだ?」 「大学生の時かな。しかも友達のお母さん」  引くなよと言って、斉木が力なく笑う。 「まぁー若気の至りって、言われたらそれまでだけど……でも当時は本気で好きだった。お互いにこそこそ密会して……友達にバレたらどうしようという不安と、好きだから会いたいという気持ちが葛藤してたんだ」  微かに震える指先で、斉木が灰皿に灰を落としていく。緊張しているのか。それとも当時を思い出し、寂寥感を堪えているのだろうか。 「大学卒業と同時に、その人とは別れた。旦那と別れるとも言ってきたけど、俺は友達にどう話せば良いか分からなかったし、周囲の反応が怖くて逃げたんだ。不誠実だろう?」 「……そうだな。でも、本気で好きだったんだろう?」  嫌悪よりも、斉木にもそういった恋愛に懊悩していたのだと知って、同情の念のほうが大きかった。苦虫を潰す表情をしている斉木に、それは間違っているとは言えるはずもない。

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