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 美しい長い尾鰭は、まるで母が着ていた真紅のミニドレスのようだった。身体のラインに沿って、綺麗な曲線を描くドレスは男の目には扇情的に映り込む。母が店に立つ時、決まってそういう格好だった。  このベタという魚も、綺羅びやかな尾鰭を水中に漂わせ、松原の目を今も引いているのかもしれない。  春夜(しゅんや)は何種類ものベタが載っている飼育本に目を落としつつ、湧き上がるやりきれなさに歯噛みした。  腫れが多少引いても、まだキミヨから許可が降りず店に出れず仕舞いでいた。  このままずっと客を取らせてもらえないかもしれないと、春夜は焦燥感に駆られていた。  気を少しでも紛らわそうとして、本屋で買ったベタの飼育本を広げて見始めるも、今度は松原のことが気になってしまう。  悪循環に春夜は溜息を吐き出し、本を閉じた。これ以上見ていたら、未練がましく思ってしまいそうだった。 「ハルヤ。またあのお客が来てるよ」  襖の外からキミヨの不機嫌そうな声が聞こえ、春夜は驚いて襖を見つめる。 「あんたに話があるって言ってるけど、どうするんかい? 追い返すかい?」  返事をしない春夜に痺れを切らしたのか、キミヨが襖を開けて顔をだす。

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