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「なんだよ。物思いになんかふけっちゃってさ。まさか今更になって、魚が可哀想とか思ったりなんかしてないだろうな」  茶化すように斉木はそう言うと、通りかかった店員を引き留める。ビールを追加で頼み、お前も飲むだろうと目で訴えかけられ頷いた。結局は飲んでしまうのだから、いつも通りの流れだった。 「そんなわけないだろう。前に食べた筑前煮を思い出したんだ」  店員が立ち去ると、松原は斉木の発言を訂正した。 「筑前煮?」 「ああ。あの店でビールの肴に出されたことがあったんだ。その時、彼もやたらと俺の顔色を伺っていたんだ」  あの筑前煮は美味かったと言って、届いた二杯目のビールに口を付ける。ここの小鉢に盛られているのも筑前煮で、確かに美味しいが少し味が薄く感じられる。一方でハルヤに出された筑前煮は、甘めで濃く煮付けられていた。 「それってさ、彼が作ったじゃないのか?」 「まさかな。ああいう所って、厨房にスタッフとかがいるんじゃないのか?」  客を相手にするのが仕事なのに、そこまでするのだろうか。それよりも、あの腰の曲がった老婆が作ったと考える方が納得がいった。

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