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「いるだろうけど、その子はお前にだけ、自分の作ったのを出したんじゃないのか?」
「なんでわざわざ、そんなことをする必要があるんだ?」
「そりゃあ、お前に食べてほしいからじゃないのか」
斉木はそう言って、口元を緩め「相思相愛だな」と付け足した。
「松原好みの味付けで作れるだなんて、いい嫁になりそうじゃん。うちに来て、美味しいご飯を作ってくれって、言えば良いんじゃないのか?」
斉木の言葉に、松原は力なく首を横に振る。ハルヤがあの場所から縛られている以上は、それは不可能だった。
「うちに来れば良いと言ったが、断られた」
「どうして?」
「彼はあそこから出る気はないらしい」
斉木は黙り込んで、どうしたものかと眉を下げた。
「そんなに……今の仕事を気に入っているのか」
「どうなんだろうな。俺にも分からない。ただ――以前に、彼が母親を探してるみたいなことを言っていた」
「母親を?」
斉木が眉を寄せる。
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