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「ああ。彼本人のことなのかどうなのか、それは定かじゃないけどな」 「どういう意味だ?」  斉木の問いに松原は、最初にあったときにハルヤが話してくれた、ある男の話を聞かせた。何ヶ月も前のことで、事細かには覚えてはいなかった。  印象的だった母親がそこで働いていて、彼がそこに母親を探しに来てそのまま働いていること。彼が高校生まで親戚の家にいたことを話した。 「それは彼の話なんじゃないのか」 「そうだとは断言できないが、俺もそんな気がしていたんだ。あの場所では、自分自身のことを話せない決まりになっているらしいからな。自分のことだとは明言せずに、架空の人物だと言って話したのかもしれない」 「でもさ、なんで松原にそんな過去の話をしたんだ?」  斉木が首を傾げて、ビールに口を付ける。 「それは……俺が彼にプライベートな突っ込みをしたからだと思う。彼も代わりにその男の話をすると言ってきたからな」  思い出すと恥ずかしさに全身が熱くなった。説教じみたことをしたようで、面倒くさい奴だとハルヤはあの時は思ったかもしれない。 「なるほどね。なんでこんなとこで働いているんだとか、聞いてそうだもんな」  図星を突かれ、松原は決まり悪く俯いた。

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