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「なんでこんな事になる前に、言わなかったんだい? あたしが気づかなかったら、あんたは死んでたんだよ!」 「……ごめん」  キミヨの険悪な雰囲気に、本当に心配をかけたのだと罪悪感が込み上げた。 「でも……どうして気づいたの?」  いくら廊下を隔てているのが襖一枚とはいえ、大声をあげたり壁を蹴らない限りは分からないはずだ。  訝しげな春夜に対し、キミヨは決まり悪そうに眉を顰めた。 「あの客はあんたの何なのか、あたしには分からない。でもあんたの顔を見てりゃあ、どんな客なのかぐらい察しがつくんだよ。危ない目に合わされてるんじゃないかって、こっちは気が気じゃないんだ」 「あの時、近くにいたの?」 「いたさ。こっちは忙しいっていうのに」  言動は素っ気ないものの、心配してくれていたのだと伝わってくる。 「あんたは一度あの男に痛い目見てるだろう? それなのに、なんで出禁にしないんだい。出禁にする相手を間違えているんじゃないのかい?」  松原のことを指しているのだとすぐに分かった。

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