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 しかも本人からではなく、支配人がわざわざ連絡してくることがどうにもおかしい。  嫌な予感にどういうことか聞く前に電話は切られ、虚しく通話の途切れた音が残された。  居ても立っても居られず、急用ができたと定時には仕事を切り上げ、驚く斉木を尻目に会社を飛び出してこの場所に来た。  まだ開店していないのか、木造の平屋建ての玄関は閉ざされていた。  インターホンを鳴らすしてしばらくすると、キミヨが姿を現す。松原の姿を一瞥(いちべつ)すると脇にどけ「こちらへ」と言って中に促された。  案内されたのは一階のハルヤの部屋だった。  松原が疑問を口にする間もなく、キミヨが声をかけて襖を開く。  以前来た時と、あまり変わらない部屋の風景。中央に置かれたちゃぶ台の前に、ハルヤが緊張した面持ちで正座していた。  見慣れた着物姿ではなく、黒のパンツに白のニットのセーター。こうして見ると、普通の大学生に見える。ただ周囲とは一線を画すような、艶めいた雰囲気は消えていない。 「この子は店を辞めるそうだよ。だから金魚を引き取って欲しいって私に言ってきたんだ。私は世話なんて到底できないからね。持ち主のあんたを呼んだ」  さも迷惑そうにキミヨが言った。

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