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「アクティブな魚なんですね」
魚じゃなくて熱帯魚だと言いかけた時、ベタがフレアリングを始めた。
ハルヤの目が見開かれ、松原もそちらに釘付けになる。
激しく尾鰭をはためかせ、目に怒気が宿る。一旦離れては近づき、威嚇するように舞い踊りだす。
「綺麗ですね」
感嘆の声を上げるハルヤに、松原は視線を移す。うっとりと見つめるハルヤの艶やかな表情が、水槽に映し出される。
「春夜 」
驚いたような表情が松原に向けられる。
ハルヤの肩を掴むと、顔を寄せていく。触れる程度のキスをすると「見られてますよ」とハルヤが笑った。
「そうだな。でも別に構わない」
「良いんですか? 嫉妬されちゃうかもしれませんよ」
そう言って微笑む艶美な姿に、松原は目を奪われる。
ベタよりも今は、目の前にいる美しい人に夢中になっていた。
そんな主人の心変わりに気づいたのか、水槽の住人はいつもよりも大きく尾鰭を広げて威嚇し続けていた。
了
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