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第1話

美しいモノを眺めて愛でるのは愉しい。だが、一番美しいのは大切なモノを壊す瞬間が最高の美であり、愛だった。 俺達は写し絵のように似ていて、誰しもが兄弟だと分かる。兄が開斗、弟が拓斗、二人は二卵性の双子。 オクシデンタルの血が混ざる俺達は、生まれつき色素の薄い髪色に白い肌だった。その血は弟の拓斗に濃く混ざり顕著に表れた。澄んだ紺碧の瞳が容姿の良さを際立たせた。 そして……双子の兄である俺にないもの拓斗はアルファで、俺はベータ。 全て同じ造りなのにベータでしかない俺は、兄としての威厳どころか存在すら薄い。華やかさも、兄である事さえ弟の拓斗が全て掻き消してしまう。強いて上げるなら俺の瞳は漆黒で、光の加減で碧に見えるぐらいだ。 何かの力を借りないと輝けない……皮肉なものだ。これでも華道家の息子なのに華がないだなんて致命的だ。 祖父は、拓斗を溺愛していた。祖父はオクシデンタルの血筋で、拓斗は「若い頃の祖父にそっくりだ」と祖母が拓斗に言っていたのを聞いた事がある。 小学校の入学祝いに、蝶愛好家でもある祖父がプレゼントしてくれた。拓斗は瞳の色に似た「アオスジアゲハ」の標本で、俺には「カラスアゲハ」の標本だった。 拓斗は感情にとても素直で愛嬌がある。標本の蝶は碧が目を引く華やかで綺麗だった。俺のは……真っ黒な蝶で外見上、分からないが光に翳すと碧に見えるんだと祖父は言った。拓斗は俺に「うわ〜〜綺麗!」と目を輝かせて笑う。 拓斗のこういうところが嫌いだった。余計、惨めになるのが分からないのか?周囲の目を惹きつけ、誰からも愛される拓斗には俺の気持ちなんて分からない。 拓斗には拓斗の俺は俺の役割りがあるって……開斗は拓斗を支えてやってくれと祖父に頼まれた。 普通の俺とは違い、正に才色兼備の拓斗は華道家の家元として、大切に育てられていた。 両親や祖父達の期待を受け、それに応えようとしている様を俺は冷ややかに傍観していた。 あれじゃ……生きた人形だな。 内心、自分じゃなくて良かったと自由の身の俺は、周囲の関心なんかどうでもよくなった。そんな俺を拓斗は、不安げに見ていた。事務的にしか関わらない俺が気に入らないのか、俺の関心を惹きたいのか拓斗は、綺麗な瞳で俺の居場所を探し目で追っていた。 「なんだ言いたい事があるなら言えよ」 「兄さんは俺を見ないし、褒めてもくれない。兄弟なのに? 俺のこと嫌い?」 「なんだ、そんな事か。聞いてどうする? 兄弟なのは確かだが」 「そんなんじゃない! そんなの聞きたいんじゃない! 俺は兄さんが羨ましいよ」 羨ましい? 俺が? ふざけてんのか? 「もう子供じゃないんだ高校生にもなって何言ってんだ」 「……兄さん」 手に触れようとした拓斗の手を無意識に避けてしまった。傷付いた顔をした拓斗は、手を引っ込め強く拳を握り締める。 「ごめん……」 傷付いた顔で謝られても、俺の知ったことかって。 それでも拓斗は、懲りずに俺に話掛けてくる。同じ高校で目指す大学も一緒だがクラスが違う。そのせいもあるのかもしれないが、何をそんなに話す事があるのかと、ソファーに座る俺の横で拓斗のよく動く唇を眺めていた。 祖父から頼まれた言い付けを健気に守っていたが、こうも絡んまれると鬱陶しい。適当に相手をし、立ち上がった俺の腕を拓斗が掴んだ。 「なんだ?」 「兄さん、俺のこと好き?」 またか……どう応えたら納得するんだおまえは……嫌いだと言えば関わってこなくなるのか? 質問の意図を下から見つめてくる拓斗の不安げな碧い瞳を探ってみた。同じ顔に人を惹きつける嫌味な瞳を見つめたところで、分かる訳がない。 「いい言わなくて……子供染みた冗談だよ」 掴んだ俺の腕を離し立ち上がった。拓斗は部屋のドアへ向かう途中で足を止める。 「兄さんは俺に関心ないんだね……」 拓斗の振り返る事なく吐かれた言葉は、俺の胸を刺した。 分かってるよおまえが悪いんじゃないことぐらい。宿命を運命を受け入れればいい。どうしても考えてしまうんだ。 同じ双子なのに何故、兄である俺じゃないんだって……同じ容姿だから許せないんだよ。 双子(片割れ)だから許せない……

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