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第4話

日本へ帰国した俺は、祖父が大事な話があると呼び出され実家へ戻った。 留学中、一度も帰省しなかった事を言われるのかと思いきや、祖父の部屋に入るなり紹介された。長い黒髪の純血(混じり気のない)女性。俺はなんとなく察しがつき、紹介された女性と挨拶を交わした。 俺の我儘を許してくれていたんだ。このまま落ち着くのもいいかもしれない…… 少し他愛もない話をし、俺はすぐ戻ると言い席を立った。何年振りだろう自分の部屋が気になり階段を上がった。壁際に凭れている男性に気付き足を止めた。数年見ない間に背が伸び、あんなにそっくりだった容姿は、男らしい男性へと成長していた。 「拓斗?」 「兄さん久しぶり。ここに来ると思った」 階段を上がり、そのまま部屋へ足を進めようとした俺を拓斗に阻まれる。俺の耳元に顔を近付け頬を寄せる。 「会いたかったよ」 大人になった拓斗から知らない香りがする。その香りにフラついた俺の躰を拓斗が抱きしめた。 「開斗…好き…愛してる」 俺の唇にキスをしようと顔を近付けた拓斗を押し退けた。 「止めろ! 離せ!」 「兄さん! 危ない……!」 バランスを崩した俺の腕を掴んで引っ張った。その拓斗の躰が投げ出され、階段を落ちていく―― 「たく…と…拓斗!!」 階段から落ちた拓斗は、一週間目を覚まさなかった。目覚めてからの拓斗は、呼んでも反応がなく、介護がないと生活出来ない状態だった。検査をして調べたが、異常はないと結果が出るだけ。 拓斗に「どうして庇ったんだ!」と何度言っただろう。目は虚ろで口元はだらしなく開き、以前の拓斗の姿は、微塵も残っていなかった。 拓斗がこうなってしまった以上、祖父から「家元は開斗が継なさい」と言われた。昔の俺なら喜んだに違いない。たが、今の俺はそうじゃない。華道家の家元は拓斗でないといけない。俺じゃダメなんだと思い知らされた。 拓斗が戻って来れるよう俺は、拓斗の世話をしながらその代理を務めていた。 暗い室内を逃げる……黒い手が髪を掴み、躰を無理矢理開く。何度も何度も奥まで進入し突き上げ揺さぶる…… 犯される夢―― 最近よく見るようになった。目覚めの最悪な休日。俺は怠い躰を起こし部屋を出た。拓斗の世話をして車椅子に乗せた。 「今日よく晴れてるね」といい、俺は虚ろな拓斗を見た。 「拓斗…どうして聞こえない振りをしている? ワザとだろ? 返事しろよ!」 虚ろな碧い()は俺を映さない。拓斗の動かない手を持ち、車椅子に座る拓斗の膝の上に片足を乗せた。シャツを手繰り寄せ、胸に拓斗の手を触れさせる。 「最近、おまえに犯される夢を見る。 あの時、ヤられた効力半端ないな…拓斗…触れよ! ほら!」 動かない拓斗の手を乱暴に払った。 「クソ! なんでだ!」 大きな窓の外を、二頭の蝶が飛んでいるのが目に入った。 「見ろよ拓斗、青い蝶と黒い蝶が飛んる…っっ!」 突然……下腹部が痛み出した。押さえながら俺は、窓の外を飛ぶ蝶に向かって走った。窓の淵へ足を掛けた時、腕を引かれた。振り返ると拓斗が俺の腕を掴んで立っていた。 「拓…斗……」 「俺から逃げ……るなんてもう…許さない」 驚いて座り込む俺を拓斗が抱きしめた。その温もりに涙が溢れ出す。 「っ……!」 下腹部を押さえる俺を拓斗が強く抱きしめた。 「兄さん! 俺の兄さん!」 「苦しいよ拓斗……」 「兄さん、もしかして?」 その問いに俺は小さく頷いた。拓斗の唇が重なる。優しく吸われ絡まる舌先。首筋を這う唇と熱を帯びた拓斗の手が、申し訳程度の乳首を摘んだ。 「あっ! いや……」 熱い舌が這い、反応する局部をねっとり舐め上げながら濡れる後ろを指で解し、中まで愛撫する。 「こ…壊れる……あっ!」 おまえのせいだ…… 「開斗…ごめんね。俺こんなで」 許されない……こんな事…… 「うぁっ! あ…つい……拓斗…いいから…壊せ! あっ!」 あの時、受け止めれなかった。兄弟という事実、躰に残る拓斗の熱。嫌だといいなが湧き上がる悍ましい感情。だから逃げた拓斗ともう一人のタクトから…… 「好きだ…兄さん」 精神を壊してまで俺だけを追い求める……そんな拓斗を鎮めてやれるのは俺だけ。 俺だけの弟…… 「綺麗だよ…開斗」 拓斗は優しく背中にキスをし、激しく俺を揺さぶる。奥が熱く疼き、繋がる部分を締め付けた。拓斗が眉間に皺を寄せ堪えてる姿を俺は愛しいと思った。その顔を引き寄せキスをする。 「開斗! イッ! あぁっ! はぁっっ…!」 開斗…愛してる…… 目を覚ました俺は、気怠い躰を起こし今まで隣に感じていた温もりを目で追った。 「拓斗……?」 大きな窓のカーテンが風に靡く。下腹部の鈍い痛みと胎動に手を這わせ微笑んだ。 その日はとてもよく晴れた紺碧の空が見えた。

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