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20 純平の事情②
それなのに……
あの日あの時、大学の先輩達と飲みに行き、たまたま目に留まったバーに入った。程よく皆の酔いもまわり「飲み足りないからもう一軒!」と誰かが言い出し、すぐの事だ。一人の先輩は「この店雰囲気いいんだぜ」なんて言って知ったような顔をしていたけど。
本当にたまたま偶然だったんだ。
店に入った途端に、この店は俺らには場違いだって気がついた。既に酔っ払っていた先輩達はそんなの気にせずにズンズン中へと進んでしまう。客も少なく静かなフロア。ガヤガヤ騒ぎながら先輩達は奥のテーブルへ座ってしまった。
元々そんなに酒に強くない俺はたいして飲んでなかったから、大声で話し出す先輩達が気が気でしょうがなかった。こんな居た堪れない気分になるならさっさと一人で帰ればよかった。そんな風に後悔していた矢先にふわっと僅かにいい匂いが鼻をくすぐった。
「いらっしゃいませ……飲み物どうされますか?」
その心地の良い声に顔を上げると綺麗な顔の男の人が俺らを見て笑いかけていた。
……驚いた。
あの泣き笑いの顔が一気に頭に蘇る。あまりにも胸がドキドキして、俺は声が出せなかった。
間違いなくあの時の人だとわかった。
それからは、飲み会がある度に二次会と称して俺はこのバーに足を運んだ。飲み会がなくても、先輩達を捕まえてはまた飲みに行く。
悠さんは、毎回煩く騒ぐ俺らに嫌な顔もせずににこにこと注文を取ってくれる。こんなにもしょっちゅう店に足を運ぶのに、俺はドキドキしてしまって悠さんを遠目に盗み見ることしかできなかった。
そしてついに何度目かの来店時に、悠さんが話しかけてくれたんだ。
「いつもありがとうございます。お客様、いつも顔ぶれが同じ様子ですが、どんな集まりなんですか? 仲良くて楽しそうですね」
きっと悠さんは俺たちの事をうるさい客だと思いながら声をかけてくれたのだと思う。でも俺はただ見てるだけじゃなくて、もっともっと親しくなりたい、図々しいかもしれないけどそう思ってしまった。これを機に、俺は頑張って第一歩を踏み出したんだ。
ほんの些細なことでもいい、この人の事をもっと知りたい。そう思ったら、いてもたってもいられなくなった。気づいたら仕事終わりの悠さんの後をつけたり、昼間の行動をチェックしたり……陽介に興奮してこの事を話したら「それストーカーじゃんか! バカみたいな事はやめろ!」と本気で怒られてしまった。
でも、そのおかげで俺は悠さんと近づけた。
ニ人っきりでデートできるまで仲良くなれた……
やっぱり俺、悠さんの事好きなのかな?
悠さんが笑ってくれると嬉しい。
でもその笑顔がなぜだか寂しそうにも見えてしまう。
そんな悠さんが俺はどうしても気になってしまうんだ。
俺は一体どうしたいんだろう。
自分でもよくわからなかった──
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