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24 会いたくない人
「あれ? 悠さんじゃん、どうしたの? え? 珍しいね! 酔ってんの?」
急に聞いた事のある声が背後から聞こえ、その声に体が強張る。
「……悠さん?」
急に立ち止まる俺に純平君が心配そうに顔を覗きこんでくるけど、咄嗟に言葉が出てこなかった。
嫌だ──
なんでこんな時にこいつに出会すんだ。
「悠さ〜ん? どうしたの?……あれ? 人違い?」
横に回り込んできたそいつに、あからさまに純平君が不快な表情を浮かべた。俺がいつまでも黙っているからか、純平君が俺を庇うように前に出てくれた。
「なんですか? 何か用で…… あっ」
「ああ、君か! あの時はどうも」
急に親しげに話し出し、純平君も表情を変え和かに話し出した。状況が飲み込めず、俺だけ置いてけぼりになった気分で戸惑う。
なんでこいつと純平君が知り合いなんだよ?
最悪だ……
「悠さん、敦 さんと知り合いだったんですか?……こないだジムで悠さんが倒れた時に助けてくれたの、あれ敦さんなんですよ」
「え?」
「敦さん、有名人だから。黙ってた方がいいかな? って思ってたんだけど、悠さんもお知り合いならそんな必要なかったですね」
信じられない。それは早く言って欲しかった。
「悠さん、久しぶり。ちょっと? ちゃんと顔見せろよ」
敦に覗き込まれ、渋々顔を上げ軽く会釈をした。この見透かしたような目が俺は苦手なんだ。居心地が悪くドキドキする。
敦はモデルだ。
テレビのバラエティーにも出たりするから、ちょっとした有名人だった。そして、陸也の恋人の志音と同じ事務所……こいつは志音の先輩にあたる。
はっきり言って俺は敦が苦手だ。ここのところ会う事がなかったのにこんなタイミングで運が悪い。
「ねえ、悠さん? うん、顔色はいいね。ってか今日は酔ってるから血色いいのかな」
敦は俺の目の前に立ち、顔を近づけ頬を優しく撫でてくる。いちいちスキンシップが鬱陶しい。俺は慌ててその手を払い、目を逸らした。
「なに? 帰るとこ? なら俺が送ってくよ。悠さん酔っ払ってんの珍しいよね。貴重だわ」
ご機嫌で俺と純平君の間に入り、俺の肩に腕を回す。距離が近く馴れ馴れしいのも苦手なところだ。
「えっと、あの……俺、今日車なんですよ。飲んでないから俺が家まで送ろうかと思ってたんだけど……」
「マジ? じゃぁ、俺も! 一緒に行く行く」
どういうわけか、敦まで純平君に送ってもらうなんて言い出した。なんでそうなるんだよ、図々しいにも程がある! そう思い俺は敦を睨んだ。
「敦、酔ってんの? お前は来なくていいよ」
思わずそう言うと、敦はパァッと顔を綻ばせ、肩にまわす腕に力をこめた。
「やっと悠さんの声聞けた。まったくいつもツンツンしちゃってさぁ。可愛いよね」
別にツンツンしてるわけじゃない。
お前が嫌なんだよ……
「いいよ、明日も仕事あるんだろ? さっさと帰れば? 俺は純平君に送ってもらうから……」
「え? なに言っちゃってんの? 悠さん、コイツに送りオオカミされちゃうよ」
「は?」
バカか? そもそも俺が彼の恋愛対象にも入っていないのに「送りオオカミ」もクソも無い。変な気を回してくれなくても俺は大丈夫。
「そんな事ないだろ? バカなこと言ってんなよ。ごめんね純平君。失礼だよな」
言いながら、それこそ冗談にムキになってしまっている自分に気がつき複雑な気持ちになる。そんな俺にかまわず、純平君はニコッと笑い、軽く首を振った。
「大丈夫ですよ。仲がいいんですね。俺が敦さんも一緒に送ります」
仲がいいなんてまったくもって心外で変な誤解をされてしまったけど、不本意ながらもしょうがなく、敦も一緒に純平君の車に乗り込み送ってもらった。
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