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37 近付きたい心
「もしかして敦の態度が不愉快だった? ごめんね。デリカシー無い奴で……」
俺が珍しく酒のおかわりなんか頼むから悠さんは驚いたようで、さっきの敦さんとのやりとりを気にしてこう聞いてきた。
そんなに気を遣わなくていいのに、優しいんだな。
「別に何とも思ってないですよ? 悠さん気にしすぎです。気遣ってくれるのはすごく嬉しいけど……」
嬉しいけど──
悠さんは誰にでも優しくて気遣いのできる人だから。
俺が特別なんじゃない。
敦さんとの親密さを感じてしまって、もやっとする。敦さんに代わって悠さんが俺に謝っているように思える。これはジェラシーなのだろうか。
「悠さん……ちょっと聞いてもいいですか?」
顔が熱い。お酒のせいかな。緊張してドキドキした。
「前に、えっとかなり前なんですけど、悠さん……なんで泣いてたんですか? 俺ずっと気になってて、あ、いやすみません。おかしいですよね。でも悠さん泣いてるくせにあんな笑顔なんて見せるから……なんか凄え気になっちゃって……」
俺はあの涙の理由を聞いて、どうしたいんだろう? なんでこんなに気持ちになっているんだろう。
悠さんともっと近付きたいから……そう、俺はきっと悠さんの特別になりたいんだ。
でも「特別」って、なんだろう。
俺はすごく頭の中がゴチャゴチャだった。
俺の突然の質問に悠さんはキョトンとしてしまう。
ずっと前のことだ、きっともうとっくに忘れているのだろう。でもハンカチのことを話したら思い出したらしく、ご丁寧にその時のハンカチをお礼の言葉と共に返された。そして「恥ずかしいところを見られちゃった」と言いながら、悠さんは少しだけ嫌そうな顔を見せた。
その瞬間、せっかく少し近づいたと思った悠さんに距離を感じてしまい、慌ててテーブルにハンカチを置き悠さんの手を握る。思わず動いてしまっていた。
何でそんな顔するんだよ──
「俺の友達はさ、よくあることだ……なんて言ってたけど、男が涙を流すのってよっぽどの事だと思うから。あの時の悠さん、凄い辛そうにぼろぼろ涙を落としてたくせに、見ず知らずの俺に向かって笑顔を見せたんですよ? きっと辛いのに、赤の他人になんであんな風に笑えるのかなって……悠さん、いっぱい無理してませんか? 大丈夫ですか?」
俺は悠さんに心から笑っていてほしいんだ。
そう……
何でかはわからないけど、あの時初めて会って今まで俺が感じた事。悠さんは自分を隠して明るく振舞ったり気遣ったり、作り笑顔を見せたり、そんな風に見えていたから……
なんとかしてあげたい。そう思ったんだ。
俺がいきなり手なんか握るから驚いたのか、一瞬悠さんが手を引っ込めようとした。でも俺はその手を離さなかった。
俺はやりすぎてしまったのかな。
俺は思った事、ずっと気になってた事を悠さんに聞いただけだ。
悠さんの気持ちを考えて、それでなんとかしてあげたくてそう言ったつもりだったんだけど、俺は悠さんの気持ちなんてちっともわかってなかったんだ。
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