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36 純平の気持ち

 休みの日、悠さんにお礼と称してデートをしもらった──  正直緊張しっぱなしだった。  悠さんが時折見せるあの寂しそうな笑顔をもう見たくなかったから、俺は悠さんが楽しめるように……リラックスできるように、そんな事ばかり考え一日過ごした。  悠さんの店に通うようになり、少しずつ距離も縮まったせいか悠さんも少しは俺に気を許してくれていると思えるようにもなっていた。それは素直に嬉しかったんだ。  晩飯にと俺が行きつけにしている居酒屋に誘ってみたら喜んでくれた。そこの大将は豪快な人で、お喋り上手な悠さんをえらく気に入り沢山飲ませてしまっていた。俺が殆ど飲まないから、矛先が悠さんに向かってしまったような感じ……  酔っ払ってしまった悠さんの頭が俺の肩にのる。よくある光景。それでも何で俺はこんなにドキドキしてしまっているのだろう。男同士なのに、なんでこんなに動揺してしまっているのだろう。  フワッと悠さんの良い匂いが鼻を擽り、一気に顔が熱くなった。  俺、おかしいのかな?  やっぱり陽介が言うように惚れちゃったのだろうか。  でも相手は男だ。  同性を好きになる……  俺の周りにはそういう奴もいるから理解はできる。でも実際自分の事となると、わからなかった。  悠さんが気になってしょうがないから、また今日も店に足を運んだ。  一杯飲んですぐに帰るつもりでいたのに、敦さんが先に来ていて少し会話を楽しんだ。奥で休んでいた悠さんも出てきてくれて、三人で会話をする。  でも、敦さんの言葉の端々に棘を感じるのは気のせいだろうか……  昨日の事も「デート」だと言って揶揄われた。悠さんにどう思われてしまうか不安になって、俺は慌てて否定した。 『──悠さんのこと独り占めしたかったんだろ?』 ……独り占め? 『──悠さんと同じジム行ったりデートに誘ったり、もしかして悠さんの事狙ってんの?』  いや、狙ってるって、そういうわけじゃないけど。でもそう見えてしまうのだろうか、やっぱり。  俺は敦さんに何て言ったらいいのかわからず困ってしまった。悠さんはそんな俺を見て敦さんにピシャッと怒っていた。敦さんは相変わらずヘラヘラとしているけど、悠さんが怒るということは、やっぱり俺は揶揄われていたんだな、と改めて気が付いた。  それにしても悠さんがあんなに感情を露わにするのは珍しい。悠さんは怒っているけど、これって素直な感情を敦さんにぶつけてるってことだろう? なんだか敦さんが少し羨ましかった。  店を出て行く敦さんの背中を見つめる悠さんの表情が、また見たこともない複雑な顔をしていた……  昨晩敦さんと会った時は単に悠さんと仲がいいのだと思った。でもさっきまでの二人を見ていると、それもどうなんだろう、とも思う。  敦さんに対して嫌悪を感じてるように見える悠さん。でも、なんでそんな顔して敦さんの背中を見つめるの?  俺の中で、なんだかよくわからないモヤモヤとしたものが渦巻いた。この店に来るようになって、沢山話もして仲良くなった。  それでもまだ俺は悠さんの事、なんにもわかっていないのだと気付かされた……  初めて会った時のあの涙。  何で俺はあの時立ち止まり声をかけてしまったんだろう。  あの時俺が感じた気持ちも……  やっぱり知りたいと思ってしまった。  そう思ったら、俺は飲めない酒のおかわりを頼んでいた──

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