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49 不安と気付き

 思った通り、それからすぐに純平君が来店した。  純平君はにこにこと俺の方へ歩いてくると、奥のテーブルにいた里佳さんと靖史君に気が付き顔色を変えた。 「な……なんでいるの?」  その様子は思いっきり動揺している。  なんで純平君は動揺してるの?  まさか俺に気を使ってるわけじゃないよね? 「純平君? お友達来てるよ。早く行きな。飲み物はいつものでいいんだよね?」  俺は純平君にそう言うと、普段と変わらず酒を作り始める。おどおどと俺の顔を見てから純平君はぺこりと小さく頭を下げて里佳さん達のテーブルへと行ってしまった。  俺は純平君のもとに飲み物を運び、またカウンターへと戻る。向こうのテーブルは気にしないように他の客の相手をしながら、俺は今日もいつも通り仕事をした。  楽しそうな笑顔。  俺は純平君のあの笑顔が好きなんだ……なのになんで今日はこんなに見たくないって思ってしまうんだろう。  ちょっと気分が沈んできたところに扉のベルの音が鳴り、客の来店を知らせた。目線を入り口へと向けると、そこには笑顔の敦の姿。 「久しぶり……って、あれ? また悠さん浮かない顔してる。俺が来なくて寂しかったの?」  クスクスと笑いながら、敦はカウンターに腰掛けた。 「なんだよ、もう来ないのかと思ったよ。寂しいわけねぇだろ」  敦の軽口をやんわり去なす事が出来ずに、俺は動揺してしまった。そんな俺を不思議そうな顔をして見る敦の視線が奥のテーブルへと向かった。その視線の先には楽しそうな純平君と里佳さん達。 「あぁなるほどね。誰あれ? 純平君の元カノってとこかな?」  敦はさっきまでのにやけ顔をやめ、何故だか真面目な顔をして俺を見つめる。 「ああいうのってさ、どうしても気になっちゃうよな。俺らみたいのはとくにね……いいの? モヤモヤしたまんまで。また一人で溜め込むの?」 「………… 」 「ゆーうさん? 聞いてますかぁ?」  ぼんやりとしてしまった俺の目の前で敦が手をヒラヒラとさせた。 「うるさい」  敦はいつも俺の意識の奥にズカズカと入り込んでくる。なんで俺は敦の前だとこんなに不安な気持ちになるのだろう。こいつの前でだと誤魔化せなくなる気がしてきて怖いんだ。 「悠さん? ぼんやりしすぎだよ」 「……?!」  不意に敦に手を握られ驚き、慌てて敦の顔を見る。 「悠さん? 大丈夫だよ……何でも心に閉じ込めないでちゃんと相手にぶつけろよ。言わなきゃわからない事だってあるんだ。それくらいわかるだろ?」 「………… 」  やっぱりだ── 「悠さんのその悪い癖、もうやめな。無意識なのかもしれないけど……」  敦はわかってるんだ。  俺は何も言う事が出来ず、ただ俯いて黙り込んだ。 「悠さんってそういうとこ面倒くさいよね。でもさ、そういうところ、俺は愛おしく思うよ」  少しだけ頬を赤くした敦が、俺から目を逸らして小さく呟いた。

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