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48 元カノとの距離感

 夏祭りの日を境に、純平君の来店が少し減った。ここ最近の来店頻度が異常だったから、元に戻ったのだと思えば何もおかしくはない。  そうなんだけど……  やっぱり元カノと会ったからじゃないのかな? そう思ったら複雑な気分になった。 「悠さんおはようっす。俺、ちょっと買い物行ってきますね。早めに戻るんで、開店よろしくお願いします」  仕込みで早く来ていた元揮君がそう言って、俺と入れ違いで店を出て行く。俺は表の看板の電気をつけプレートをオープンにしようと、入り口のドアへ向かう。すると早速一人目の客がドアを開けて入ってきた。 「こんばんは。来ちゃいました! 一番乗りかな?」  目の前にいたのは、お祭りの時に出会った里佳さんだった。  純平君の元カノ──  浴衣姿は綺麗でちょっと気の強そうな印象だったけど、洋服を着ている今日はまた少し印象が違っていた。 「あ……どうぞ。いらっしゃいませ」  俺はドアの前を塞いでしまっていた事に気がついて、慌ててそこから動き里佳さんを招き入れる。後ろからもう一人、髪の長い男が軽く会釈をしながら入ってきた。 「お好きなところにどうぞ」  そう言うと、二人は並んでカウンターに座った。 「純君ってばなかなか連れてってくれないからさ、場所聞いてたから自分で来ちゃいました。すぐにわかってよかったわ」  屈託無く笑い、里佳さんは俺に笑顔を向ける。 「そうだったんですか。最近純平君忙しいのか、あまり店に顔出してくれないんですよ。ちょっと寂しいな、なんて思ってましたから里佳さんが来てくださって嬉しいです」  複雑な心境のまま、俺はまた用意されていた台詞のように、適当にペラペラとお喋りをする。  隣の男は誰だろう……?  新しい彼氏かな? 純平君の手前、それはないか。 「ところで里佳さん、彼の紹介もしてくださいよ。凄くかっこいいですよね。モテるでしょ。恋人ですか?」  恋人ではないのは明らかだったけど、わざとそういう風に聞いてみた。途端に里佳さんは目を丸くして、オーバーなくらい首を振った。 「まさか! 恋人なんかじゃないですよ。友達です。こいつ老けてるけどれっきとした同級生、高校の時からの友達なんです」  顔の横で手のひらをブンブンと振りながら、里佳さんは大きな口を開け「違う違う」と笑う。飾り気がなくて気さくで豪快……でも美人だしモテるんだろうな。 「靖史です。なんかすみません」  里佳さんとは違い物静かな印象通りに、靖史君がぺこりと頭を下げた。 「あはは、なんで謝るんです? この店に来てくださってありがたいですよ。これからもどうぞごひいきに……って、あれ? どこかでお会いしたことありましたっけ?」  ふと以前会ったことがあるような気がして俺は聞いた。「どうでしょうね」と静かに微笑む靖史君は少しミステリアスで、元気な里佳さんとは対照的だった。  しばらく三人でお喋りを楽しんでいると、買い物を済ませた元揮君が裏から戻ってきた。 「いらっしゃいませ……あ、悠さん、さっき純平君見かけましたよ? こっち向かって歩いてたから今日は店来るんじゃないですか? 久々ですよね」  元揮君がそう言うと、里佳さんがはしゃぎ出した。 「嘘! 純君こっち来るかなぁ? 今日はちょっと予定あるから……なんで言ってたくせにね。あ、純君来たらあれだから、席、奥のテーブルに移らせてもらう?」  そう言って、靖史君と二人で奥のテーブルへと移っていった。 「………… 」 「あの賑やかなお客様、純平君とお知り合いだったんですね」  元揮君の言葉に俺は軽く頷き返事をする。 (元気? ってそんな久々でもないよね)  夏祭りでの里佳さんの言葉を思い出した。別れたと言いながら、頻繁に会ってはいたんだろうな。別れた今でも普通に仲が良さそうだ。でも純平君は俺にはそんな事、ひと言も言ってなかった……気にも留めてなかったからか、それとも後ろめたくて隠してたとか? そこまで考えて首を振る。後ろめたくて……ってなんだ。そもそも俺と純平君は付き合ってもいないのだから、彼が後ろめたく思う事なんてあるわけがない。  やっぱりなんだか複雑だな。  俺っていったいなんなんだろうな──

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