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47 夏祭り

 純平君に二度目のデートに誘われた俺は、近くの公園で毎年開催されている夏祭りに来ている。  せっかくの休みの日の夕方──  結構な人混みで、こういうのが苦手な俺はちょっと気分が滅入ってしまった 。純平君はかっこよく浴衣を着こなし、俺の一歩前をスタスタと歩いている。時々立ち止まっては、あれ買いたいだのあれ美味そうだの、楽しそうに俺を振り返り笑顔を見せた。 「悠さんも浴衣着てくればよかったのに……てか俺が着てきてって言えばよかったんですよね。絶対悠さん浴衣姿カッコいいんだよ。見たかったなぁ。似合うんだろうな」  散々歩き回った後、ベンチに座りかき氷を食べながら俺にそう言う純平君はなんだかちょっと子どもっぽく見えて思わずクスッと笑ってしまった。  周りを見ると、カップルも多い。  お互い浴衣を着て手を繋いでいたり腕を組んでたり……  俺ら二人は周りからどういう風に見えるのだろう。  ……純平君は俺の事をどういう風に見てるのだろう。 「悠さん?」  ぼんやりしていた俺に純平君が声をかける。顔が近くて思わずドキッとしてしまった。  参ったな…… 「純平君、浴衣似合ってるよ」  俺がそう言うと赤い顔をして恥ずかしがるから、益々可愛い、なんて思ってしまった。  しばらくの間、純平君と二人でベンチで休む。目の前を様々な人達が通り過ぎていった。  楽しそうな笑顔、仲の良さそうな家族連れ。そんな人々をぼんやりと眺めていると不意に元気な声が降ってきて驚かされた。 「あれぇ? 純君だ! 何やってるの?」  振り返ると、鮮やかな蝶の柄の浴衣を着た綺麗な女の人が純平君に微笑んでいた。 「……里佳?」  純平君の表情から、里佳と呼ばれるその人は元カノなのだと分かってしまった。 「元気? ってそんな久々でもないよね」  そう言って、俺の方も見てぺこっと頭を下げる。純平君が俺を振り返り、ちょっとだけ微妙な表情を見せた。  ああ、困ってる。 「えっと、俺のよく行くバーのマスター。悠さん……で、こいつは里佳」  純平君は俺のことを「バーのマスター」と紹介した。確かに行きつけの店のマスターということには変わりないのだけど、この距離感には少し寂しく思ってしまう。せめて「友達」とか言ってほしかった。そう思うのは俺のエゴだ。モヤモヤとしたものが胸の奥に広がっていく。 「悠です……よろしく」  それでもそんな気持ちは微塵も出さず、いつもの笑顔で里佳さんに挨拶をする。彼女は美人で、それでいて笑顔がとても可愛らしくて、ちょっと気が強そう。黒髪で日本的な女性だった。大人びた顔つきに純平君より歳上なのかと思ったら、同い年だと言って笑っていた。 「純君お酒弱いくせに行きつけのバーだなんて……生意気ね。今度私も連れて行ってよ。ね?」 「うん、そのうちにな。て、里佳一人なの? 浴衣なんか着てめかしこんじゃってさ」  純平君が足の先から頭の上までわかりやすく視線を這わせる。 「まさか! 由香と靖史と待ち合わせてんのよ」  里佳さんはそう言って笑いながら純平君の腰のあたりをパンパンと叩いた。  さりげないボディタッチ……でもよくある女の子特有の嫌な感じは全く無かった。 「そっか。でも気をつけろよ。二人にもよろしく伝えてね」  純平君が里佳さんを気遣い、そしてちょっとふざけて彼女の頭を軽く叩く。「髪が乱れるでしょ!」と里佳さんは怒りながら純平君を肘で小突いた。  側から見れば、二人は普通にお似合いのカップルだった。  いや、元々はカップル、今だって知らない人から見たら素敵な恋人同士だ。  どう見ても、純平君にはこっちの方が似合っているんだ。  手を振り去っていく里佳さんの姿を少し顔を赤らめて見送る純平君を見て、俺は改めてそう思った。

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