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46 キス……からの気付き

 元揮君が無言で俺のことを睨んでいる。  まぁ、離れてたとはいえ悠さんがあんなに大きな声をあげて怒るから嫌でも聞こえていたんだと思う。出て行った悠さんの事が心配だし、いい加減元揮君に目力で殺されそうだったから俺は追いかけることにした。 「お騒がせ、ゴメンね。ご馳走様でした」  元揮君に笑顔でそう言って、会計を済ませて店を出る。あのまま真っ直ぐ帰ってくれてればいいのだけれど……  そんなに遅い時間でもないから、街中はそこそこの人混みだった。おまけに酔っ払いも多い。こういう時は俺は見た目のせいもあって声をかけられたり絡まれたりする事が多い。  正直言って面倒臭い。俺は持っていた帽子を目深にかぶり、悠さんを探した。  少し歩くと話し声が耳に入る。 「なぁ、アレさ……男かな? 女かな?」 「……ん? お、女? 泣いてんじゃね?」 「スタイル良さそう。ありゃ絶対いい女だぜ。てか女でも男でも、俺はヤレればどっちでもいいし」  下品な笑い声の方を見てみると、いかにもな男達が少し離れたところに座り込んでる悠さんを見てニヤついていた。  そんな汚い目で悠さんを見んなよ! と、俺は奴らを殴り倒したい衝動を抑え、悠さんのもとへ急いだ。  悠さんの前に立っても全く気がつかない。  座り込んで、俯いて……足もとにはぽたぽたと涙が溢れてる。  こんなに泣いてるとは思わなかった。俺は黙って悠さんの隣に座り、落ち着くまで待った。  泣かせてごめんな。  でも悠さん、胸の中の苦しい部分はどんどん吐き出した方がいいんだよ。自分を晒け出すのは怖いよな。だから少しずつでもいいんだ。  本当の悠さんを俺は見てみたいってこの時そう思った。  しばらく横に寄り添って座っていると悠さんが俺に気がついてこっちを見た。泣き顔を見られるのはきっと嫌だと思う。そう思った俺は悠さんの方を向かずに声をかけた。一人でこんな所で泣いていたら危ない、と。悠さんはプイッと顔を背け「別に危なくなんかないし」と言い放つ。  全く自覚がないこの物言いに思わず笑ってしまった。この人は自分がモテることはちゃんとわかっているはずなのに、変に鈍感なんだ。 「悠さん、もっと自覚しなよ……自分がモテるのわかってるくせに、こういう所は無防備だよな。俺がいなかったら悠さん危ない人に声かけられちゃってるよ?」  そう言って、まだ近くに屯してる男達の存在を教えてやった。急に不安そうな顔を見せた悠さんに、俺は「送っていく」と伝えた。  酷いことを言った俺に肩を抱かれ、文句も言わずついてくる悠さん。沢山泣いて、少しは胸の奥に溜まってしまった辛い思いを吐き出せたならいいんだけど……  どんどん消化して、ちゃんと前を向けるように。  しばらく歩くと急に悠さんが俺の肩を押す。 「もういい。一人で帰れる」 「………… 」 「敦、もういいから。一人でいたい……離して 」  僅かでも悠さんの内面に触れられたと思っていた俺は、俺を否定する悠さんになぜだか猛烈にイラっとしてしまった。  そのまま路地に入り込み、壁に悠さんを押し付ける。突然の俺の態度に困惑した顔をする悠さんの顎を掴み、俺は強引にキスをした。  あれ? ……俺、何やってんだ? 思わずとってしまった行動に自分でも困惑する。 「悠さん見てるとイラつくんだよ! 家どこ? 帰るよ!……別に何もしねえから!」 「は?」  バカか? 何もしねえって……キスしてんじゃん! 自分で自分に心の中でツッコミを入れながら、俺は悠さんのマンションまで黙って送った。  わけがわからないといった顔で、悠さんはマンションへと消えていく。そりゃそうだよ。俺だってわけがわからない。俺は後ろ姿を見送りながら、ちょっとだけドキドキしている胸を押さえた。  俺……  悠さんのこと、何とかしてやりたいって思いながら、悠さんの事好きになっちゃったんだ。  それから俺は海外での長期の仕事が入ったり、こっちにいてもバタバタしてしまい、悠さんの店になかなか顔を出せなかった。  全くいつもタイミングが悪いよな──

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