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51 変化
また一人で溜め込むの?──
敦は俺を今まで見てきたような顔をしてサラッと言う。
だって溜め込まなきゃダメだろ? 俺は普通じゃないんだからさ……
物心ついた時から俺は人と違うってわかっていた。だから周りに悟られないように生きてきたんだ。
陸也に出会って生まれて初めて恋をして毎日が楽しくてしょうがなかったけど、その恋はやっぱり辛いものだった。
陸也も俺と同じだってわかってからも、やっぱり想いは伝える事が出来なかった。
好きな奴に否定される事ほど怖い事ってないだろ? なら告白なんてしないで今まで通りの関係を維持していきたいと思うのが普通だ。
俺は高校を卒業してから今まで、いろんな人と知り合った。
俺と同じゲイの友人も出来た。みんながみんな「偏見はないよ、人と違ってたっていいじゃないか」と、そういう風に言ってくれた。励まし慰めてくれた。
でもさ、そういう風に言う時点で俺は「差別」されてるって思ってしまうんだ。
偏見はないよ……男が好きだっていいじゃないか。
それは自分たちとは違う異質なものだけど大丈夫だよ、認めるよって、そういう事だろ?
その言葉は優しくて、俺にとってありがたい言葉の筈なのに「偏見はない」と言われる度に俺は人とは違うという事実を突きつけられてる気がして、息苦しくてしょうがなかった。
俺はきっと凄く捻くれてしまってる。
人の言葉を素直に受け止められない。
自分の気持ちを出す事も出来ない。
だってその方が楽だからね。傷つく事もない。ずっとそうやって生きてきた。だから今更変えることなんてできない。
元揮君に店を任せ、俺は一人家路につく。マンション近くの24時間営業のスーパーに寄り、酒とつまみになる物と、明日の朝食のための食材などを適当に買った。誰もいない部屋にいつものように一人帰ると、先程買い足した物を冷蔵庫へとしまった。
シャワーを浴び、その後ビールを飲みながら軽く食事。そう、いつもと同じ、なんて事ない毎日の繰り返し……
一人の寂しさにはもう慣れた筈なのに、何で今日はこんなに泣きたくなってくるのだろう。
人を好きになるのが怖いから、辛い思いはもうしたくないから逃げてた筈なのに。体の中にモヤモヤした物が溜まってしまってる。
敦の言葉がさっきから頭に浮かんだり消えたり繰り返している。俺、ずっと見ないふりしてきたけど、結局全然前に進めてないんだと今更ながら気付かされた。
あんなに嫌だった敦に優しく背中を押されてる気がして、俺は複雑な気持ちになった。
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