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52 前へ……
それから俺は普段通りに毎日を過ごしていた。
普通に純平君も店に来たし、元カノの里佳さんも一緒だったりそうじゃなかったり。純平君は俺に気を使ってるのかどうなのか、里佳さんと一緒の時は決まって奥のテーブル席に座った。
きっと純平君は里佳さんを連れてくるのは嫌なんだと思う。でも里佳さんの押しに負けて、仕方がないから連れて来ているんだ。チラッと俺を見る純平君の申し訳なさそうな顔ったら……そんな気にしなくていいのに見ているとなんだか可笑しくなってしまう。純平君の表情はとてもわかりやすかった。
敦も不定期だけど相変わらずな感じで店に来る。軽口を叩いて、楽しくお喋り。俺の気持ちに余裕が出てきたのか、敦の言動に動揺する事も少なくなった。
今夜は客が少ない──
少ないと言うか、ついさっきまでいた常連客が帰ってしまったので、店内にいる現在の客はゼロだった。
「今日はいつにも増して超絶暇ですね」
元揮君がそう言って笑いながら片付けをしてる。
「でも……大抵こんな時はさ」
元揮君が言いかけた時、入口の扉についたベルが軽く鳴った。
「……ほらやっぱり」
新たな客は、少し疲れた顔をした敦だった。
「あれ? 客いないの? 大丈夫? このお店」
カウンターのいつもの席に腰掛け、敦が俺を見る。心なしかその笑顔には覇気がないように見えた。
「どうしたの? だいぶお疲れみたいじゃん。いつもの敦スマイルが燻んでない?」
本当に疲れてるみたいだったから少しだけ揶揄ってみると、敦は力なく笑った。
「……うん、もう疲れちゃったよ。最悪……仕事終わりに合コン連れてかれてさ、志音が断るから俺がかわりに連れてかれる羽目になった。俺さ、モテちゃって大変。女ってなんで胸押し付けりゃオチると思うんだろう。バカだよな。今日は頭悪そうなのばっかでしんどいから途中で逃げてきた」
「………… 」
思った以上にどうでもいい話に言葉が出ない。心配して損した、と思わずため息が漏れた。
しばらくのあいだ他愛ない話をしながら元揮君も交えて三人でお喋りをしていた。元揮君が敦の事をよく思ってないのは知っていたけど、俺が機嫌良くしていればこれと言って敦に突っかかる事もないし仲良くやれている。太亮君と交代の時間が来て元揮君が裏に入ると、太亮君が来るまでの間、敦と二人になった。
「悠さんさ、最近……いいね。俺、今の悠さんの顔、好きだよ。無理してないのがわかる」
手元のグラスに視線を落としたままの敦が嬉しそうにそう呟いた。
好きだよってなんだろう。
深い意味はないのだろうけど、ちょっとだけ……ちょっとだけドキッとしてしまった。
確かに敦の言う通り、ずっともやもやしていたものも少しずつ抜けてきた感じがする。凄く嫌だったけど、敦が色んなところを掻き混ぜてくれたお陰で、いい意味でガス抜きができたんじゃないかって思うんだ。
偏頭痛も減っていた。
少しだけ、前へ進んでも大丈夫かな? と思えるようにもなった。
自分の中で燻ってる問題……
見て見ぬ振りしていたところ、ちゃんとしようって思えるようになったんだ。
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