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71 友達

 今日は珍しいお客さんが来ていた──  以前陸也が連れてきた陽介君が一人でご来店。  店に入ってきた彼を見てすぐにわかった。あの時は高校生だった彼も少し大人びて、素敵な青年になっていた。 「いらっしゃい……陽介君だったよね。久しぶり」  確か二年ほど前かな? 陽介君が高校三年生の頃だと思う。陸也が突然この店に連れてきた。  何か思いつめたような顔をして、酷くやつれて元気がなかった。陸也に言われて特製のおじやを出してあげたんだよな。  何か悩みがあったのか、奥のテーブルで泣いてた陽介君。今俺の目の前でカウンターに腰掛けてる陽介君は、あの頃の陽介君とは全然違って逞しく見えた。 「よかった……悠さん俺の事覚えててくれたんだ。あの時はありがとうございました」 「ふふ、俺はお礼を言われるようなことしてないよ。お礼なら陸也にでしょ?」  そう言うと、眉間に皺を寄せ首を振った。 「いや、俺は悠さんの美味しいおじやに救われたんです」  真面目な顔して言うもんだから、笑ってしまった。 「大袈裟だな。でもあれ美味かったろ? 腹に優しいんだよね……てかどうしたの? 俺に会いたくなっちゃったのかな?」  冗談で陽介君の頬を撫でると、やんわりと笑って俺の手を掴み離した。 「あの……実は俺、純平と友達なんです」 「え?」 ……驚いた。  話を聞くと、俺が泣いていた時にハンカチを差し出してくれた純平君が、陽介君に色々と話をしていたらしい。 「俺もまさか純平が言ってた人が悠さんだとはわからなくて……偶然この店で再会できて、それからも仲良くなるにはどうしたらいいかとか、ついて行ったら住んでるところわかるかな? とか、ストーカーじみた事言ってて……俺、相手の名前とか聞いてなかったから、まさかその相手が悠さんだなんて思わなかったんですよね」  そして最近、純平君が言っていた人が俺だとわかったから、陽介君がこの店に来たらしい。 「なんだか純平がご迷惑かけてなかったか心配になってしまって……」  そう言って陽介君は笑った。 「そうだったんだ。迷惑なんてことはないから大丈夫だよ。純平君、元気にしてる? 最近会ってないんだよね」  純平君は、あの時から段々と店に来なくなり、最後に会ったのはいつだっけ? ちょっと考えないとわからないくらいもう会っていなかった……  わかってる。  これはしょうがないことなんだ…… 「俺も高校卒業してからは頻繁に会ってたわけじゃないんで。でもこないだ久しぶりに俺んち来て一緒に呑みましたよ。あいつはたいして呑めないんですけどね」 「そうそう、一杯も呑めば程よく顔赤くしてるよね」  いつも一杯目が終わったら烏龍茶に切り替えていた純平君を思い出し、自然と頬が緩んだ。  元気そうならなによりだ。 「なんか元カノとやり直すみたいで、俺にその報告をしにきたみたい」 「……ふうん、そうなんだ」  思いの外ショックを受けてる俺がいた。  将来の事を考えたら、俺なんかより女の人と恋をして結婚して幸せになった方がいいと、そう思って俺がフラれるように話までして……それに何より俺が、自分が傷つくのがもう嫌だった。  常に不安になるような恋愛はしたくない。  安心して愛し愛されたい。そう思ったから純平君とは付き合っちゃいけないのだと、あの時突き放したはずなのに。  ……俺の方から逃げたのに。あぁ、俺はやっぱり一人なんだな。  わかってはいたけど、ポツンと取り残されたような気持ちになった──

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