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99 抱きたい……/敦の心境

 撮影が本格的にスタートし、忙しくなってしまって悠さんに連絡をすることができなかった。いや、出来なかったというより、しようと思えば出来たのに俺は台詞を覚えたり役作りのために撮影に集中していて、連絡をしなかったんだ。自分から甘やかすなんて言っておいて何やってんだと情けなくなる。  まさかあんな事が報道されたなんて──  撮影がひと段落して初めてテレビを見て知ったんだ。  その内容は事実無根で嘘ばっかりだった。まさか自分がこんな事になるなんて夢にも思っていなかった。  慌てて悠さんに弁解をしようと連絡を入れようと思ったけど、昼間はまだ悠さんは寝ている可能性もあるし、電話でいくら俺が言ったって伝わらないかもと思い、やめた。今日の分の撮影が終わったら悠さんのところに行こう。直接会って話さないとダメだと思ったし、それに俺が悠さんと会いたかったから……  最後に会ってからどれくらい経ってるのだろう。それもわからないくらい悠さんと会えていなかったんだ。  早く会いたい── 撮影が終わり、俺は真っ先に悠さんのマンションへ向かった。部屋の前まで来て留守だとわかり、そのまま座り込んで待つ事にした。  どのくらい待ったのか、少しばかりウトウトしてた矢先に人の気配がして顔を上げると、その先には驚いた顔をして俺を見る悠さんの姿があった。  悠さんが何か言ってるけどそんなの耳に入ってこなくて、もう夢中で悠さんに抱きついてしまった。慌てた悠さんがすぐに玄関の中に入れてくれたけど、もう止まらなかった。  放っておいてゴメンね、変な報道見て不安じゃなかっただろうか……そんなことを考えながら俺は悠さんにキスをした。 「悠さん! 不安にさせてごめん。寂しい思いさせてごめん」  唇を離し悠さんにそう言うと、少しだけ泣きそうな顔をしながら「大丈夫だから、そんなことで謝るなよ」なんて言う。  まただ……  悠さんの悪い癖。  顔を見れば大丈夫じゃないのなんて一目瞭然。凄い気にしてますって顔してるくせに、すぐになんでもない風を装う。 「悠さん? 俺には素直になっていいから……甘やかしてやるって言ったでしょ? 本当に大丈夫なの? 俺と会えなくて寂しくなかった? そんなことで、って違うだろ?」  ちゃんと俺には感情をさらけ出してほしいから。強がったり誤魔化したりするかと思ったら、意外にあっさりと俺に対して不満と不安を口にしてくれたから安心した。  嬉しかった。  素直な悠さんに気を良くした俺はコーヒーまで出してもらい寛いでしまった。悠さんにもたれかかり甘えながら、連絡ができなかったこととあの女優との事を説明した。  悠さんは俺が話したことで納得したのか、穏やかな表情で俺の事を見つめるもんだから、離れたくなくなってしまった。明日も集合が早いけど、行けなくもない距離だし……もうこんな時間だし、悠さんといた方が全然良かった。  このまま抱いてしまいたい気持ちをグッと堪え、泊まっていってもいいか悠さんに聞いた。  少し恥ずかしそうな顔をしながら「一人でいたくない」なんて言われ、俺は理性を保つ自信が揺らぐ。それなのにソファで寝るつもりの俺を悠さんは寝室へと誘ってくれた。  寝間着代わりのスウェットを借り、ベッドに腰掛けて悠さんを待つ俺は不用意な言葉で泣かせてしまったあの時の事を考える。  悠さんのペースでいいと思って堪えてきたけど、なかなかバスルームから戻らない悠さんに、きっと抱かれるつもりでいてくれてるのかも……と俺は都合良く解釈をした。  しばらく待つと悠さんが部屋に戻る。  緊張した顔をしてドアの前で止まるから、俺は優しく悠さんを呼んだ。 「悠さんを抱きたい。抱かせてくれる?」  悠さんもきっとそのつもりでいてくれている、だから俺は我慢せずストレートに悠さんに聞いた。  悠さんはやっぱり恥ずかしそうな顔をして俺の前まで来ると、俺の事を抱きしめてくれた。俺はベッドに腰掛けた状態だから、抱きしめる悠さんの胸の鼓動がドキドキと伝わってきて、俺も胸が高鳴った。 「いいよ。そのつもりだったから。抱いてよ。俺のこと……いっぱい愛して」  一気に色気を含む声でそんな風に囁くもんだから、もう俺は止められなかった。 「ごめん。俺もう堪んない」  そのまま悠さんをベッドに押し倒し、俺は貪るように唇を奪う。 「あ……んっ」  俺の手が悠さんの肌に直接触れると、悠さんの口から可愛い声が小さく漏れる。今すぐめちゃくちゃに抱いてやりたい。どんどん理性が働かなくなるのがわかった。 「あ、敦ごめん……落ち着いて……ゆっくり、俺が気持ちよくさせてやるから」  ふと聞こえた悠さんの声に少しだけ我にかえる。  頬を赤らめ、俺を見つめる悠さん。  俺のことを宥めるように、優しくキスをしてくれた──

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