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107 動き出す

「勝手にこんなの買いやがって。なんだよ……俺に内緒で」 「嬉しくなかった?」 「ううん、嬉しい。ありがと」  同棲初日──  引越しが済んで二人で荷解きをしている最中、唐突に敦から手渡された箱。「開けてよ」と急かされ包みを開けてみると、中には腕時計が入っていた。  聞けば婚約指輪の代わりだそう……  腕につけてもらった時計を見る。センスのいい敦らしい腕時計。俺のことを考え、防水仕様の腕時計。いつも敦が身につけている腕時計と同じ、お揃いの物だった。  何から何まで……  俺からも何かしたいと呟いたら、毎日俺のためにご飯を作ってくれればいいと言って敦は笑った。  そうか、これからは俺は一人じゃないんだ。  今迄止まってしまっていた時間がやっと動きだした……そんな気がした。  決して大袈裟じゃなくて、新たな出発。  大切な人と一緒に。 「ありがとう」  これからは二人、一緒の時を刻むんだ。 end

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