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106 誓いの花

「悠さん……俺と一緒に来てね」  そう言って俺を見つめ微笑みかけた敦は、目の前の扉に手をかける。重厚感のある木の扉をグッと開くとその先は外、レストランの中庭だった。陽も落ち暗いはずなのに、綺麗にライトアップされた庭は幻想的で明るく、そしていくつかのテーブルに豪華に並べられた料理があった。 「……え?」  真っ先に目に飛び込んできた光景。  そこにいる全員が俺たちの方を向き、笑顔で拍手をしている。見れば皆、馴染みの顔ぶれだった。  敦の手が俺の手をクイッと引く。横の敦を見ると、深々と頭を下げていた。慌てて俺もお辞儀をし、顔を上げると敦はゆっくりと前へ進む。小さく「行くよ」と聞こえたので俺も並んで一緒に歩いた。  皆が俺らを見ている。  敦のモデル仲間やタレント仲間だろうか。どこかで見たことのある人物や、陸也や志音までそこにいた。そのうちの何人かは一輪ずつ薔薇の花を持っており、なぜかそれぞれが敦にその薔薇を手渡していた。  あまり目立たないけど中央に小さく台があり、花で飾られている。入場して並んで歩くこの様子は、やっぱり結婚式そのもののような気もするけど敦は違うと言っていた……でも、ここにいる全員が俺たちの事を祝福してくれているという事は、鈍感な俺でもちゃんとわかった。 「敦……」  最前の中央の台まで来ると、敦は俺をそこに立たせた。皆に注目されているのが気恥ずかしく、俺はどこを見たらいいのか視線が定まらずオロオロしてしまった。 「悠さん……驚かせてしまってごめんな」  ここまで歩いて来る間に敦に手渡されていた薔薇の花が、ここに来て一つの小さなブーケになっていた。その綺麗なブーケを俺の前に掲げ、敦は真剣な顔をして話し始めた。 「悠さん……悠さんはすぐに自分の気持ち押し込んじゃうところがあるだろ? 俺とのことで不安に思ったり心配に思ったり、俺ちゃんと知ってるよ」 「………… 」  敦はじっと俺を見つめる。  徐に手元のブーケから一輪 薔薇を取ると俺の胸にそれを挿した。 「悠さんが不安に思わないようにね、ここにいる俺の大切な人たち、悠さんにとっても大切な人たち皆んなに俺は誓うから……嘘はつかない、隠さない」  いつも自信に満ちた敦が、頬を赤らめ緊張した面持ちで俺に言う。 「悠さんは俺が幸せにするから。俺のことも幸せにしてよ……ずっと側にいさせてください。お願いします。そしていつかは俺と結婚……してほしい。愛してる」 「………… 」  敦は仮にもテレビにも出ている人間だ。それなのにこんなオープンな場所で何をやってるんだよ。  男同士で……  こんなに沢山の人の前で…… 「愛してる」なんて! 「……何やってるの? こんな……誰が見てるか……わからないような場所で……」  いや、ちゃんとわかってる。  ちゃんと伝わる。  敦の気持ち、敦の思い……  敦の真剣な思いがわかった。  ブーケを俺の前にずいっと差し出し、期待した目で俺を見ている。 「俺のけじめ。悠さん? 一応これ、公開プロポーズなんだよね。皆んなが見てるよ?……恥ずかしいから早く返事、聞かせてよ」 「バカやろ……こんな事して 」  俺だって恥ずかしい。  でも、嬉しくてしょうがない。 「派手な事、好きなんだよね。ゴメンね……怒った?」 「………… 」  嬉しすぎて涙が止まらなかった。 「怒る……わけない。敦は……俺が幸せにするから。一生側に……いて」  俺は敦からブーケを受け取り、俺にしてくれたのと同じように敦の胸にも薔薇を一輪、そっと挿した。  周りから拍手が湧き上がり、あちらこちらから祝福の声が上がった。  今まで生きてきて、こんなに嬉しいと思ったことは無い。俺は自分のセクシュアリティを隠して生きてきたわけじゃないけど、それでも必要でなければ自分から口にすることはしなかった。  でも敦はどうだろう……  男女問わず恋愛をしてきたらしいけど、それでも公にはなっていないはずなのに。俺のためにこんな事までしてしまってこれから先、大丈夫なのだろうか。仕事に支障はないのだろうか? 「こんな事して大丈夫なの?」  そっと敦に聞いてみると、笑って俺の肩を掴みキスをする。  驚きすぎて何も言えなくなってしまった。 「大丈夫だよ。一応この店の人にはプライベートな事だからって口止めしてはいるけど、たとえこの事が外に漏れたって俺はどうもしないよ。悠さんが俺の事を心配することはないから……あ、でも悠さんが有名人になっちゃうかもね。そうなったらごめんね」  悪気なく悪戯っぽく笑う敦に、俺は一緒に笑うしかなかった。

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