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105 大いに混乱

「悠さん、悠さんはどれがいい? ……自分で決める? 俺が選んでもいい?」  涙で滲んでよく見えない……  とりあえず優しい顔で俺を見つめる敦に促され、壁際に歩みを進めた。 「……?」  よく見るとハンガーに掛かったタキシードが並んでいる。 「悠さんせっかくお洒落してきてくれたけどさ、ごめんな。ここから選んで着替えてくれるかな?……主役なんだから」 「……?」  敦の手が俺の腰に回る。空いた方の手でズラリと並ぶタキシードを順に手に取り俺に見せた。 「俺は悠さんとお揃いがいいんだけど……どう?」 「………… 」  少しずつ状況が飲み込めてきた。  でも何で? 「ちょっ、ちょっと待て……なんだよ、なんで勝手に、これってまさか結婚式……」  まさかとは思うけど、敦の格好といい、この衣装と言い、主役って……そう考えたら納得いくけど、でもやっぱり頭の中には「何で?」という言葉が浮かぶ。 「違うよ、うーん……結婚式、ではないかな。なんていうの? 俺のケジメ。だめ?」 「……だめじゃ……ないけど」  やっぱりよくわからない。  結局よくわからないまま、俺は敦と同じ色合いのタキシードを選ぶ。いつの間に部屋にいたヘアメイクらしき人に髪の毛をセットしてもらい、俺も敦同様タキシード姿に変身をした。 「結婚式はさ、ちゃんと俺、悠さんのご両親にも挨拶してからがいいし、それはまた改めて……ね」  そう言った敦は俺の手をとり部屋を出る。  両親に挨拶って……  は?  敦はそこまで俺とのことを考えてるのか? てか挨拶なんかしなくていいし!  俺は何だか素直に喜べず、敦の言動にただ驚かされ、ついていくのがやっとだった。  そう、混乱。  俺は大いに混乱中……  強引にタキシードを着せられ、俺の手を引き歩く敦も同じタキシード姿。でも結婚式じゃなく、レストランの裏の廊下を手を繋いで歩いている……  なんなんだ?  緊張してるのかどうなのか、俺の手を握る敦の掌が汗をかいてる。  あれ? 俺の手汗かな?  もうわけがわからなかった。 「ところでさ、どこに向かってるんだ?」 「ん? パーティ会場」 「……パーティ?」  よくわからないけど、タキシードを着せられて俺が主役だということはわかった。そして「パーティ」と言う敦の言葉に、俺たち以外にも人がいるんだという事実も加わる。 ……なんだよ、緊張してくるじゃん。 「やだ……なにやってんの? 俺もなにやってんだ……」 「いやいや、今更そんなこと言わないでよ悠さん」  敦が俺の手をキュッと握り返し、笑った。  廊下を進み、途中のドアの前で立ち止まると敦が軽く深呼吸したのがわかった。 チラッと腕時計を見る。時間の確認……かな?   俺は不安なまま、敦の様子をじっと見つめた。

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