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104 タキシード
シャワーを浴び、サッパリして服を着る。あまりかしこまりすぎない程度の服を選び、ジャケットを羽織り少し早めに部屋を出た。
もし誕生日なら……と思ったけど、敦ならもう色々と手に入れているだろうし、身につけるものと言っても好みがある。ましてや誕生日かどうかすらまだちゃんと確認していないのに、適当に選んでプレゼントするなんてことはできなかった。
誕生日を祝うって大切な事だろ? それなのに俺は適当にプレゼントを買って渡そうとしていたなんてどうかしている。我ながら気の利かなさにうんざりした。
付き合い始めて、初めて祝う誕生日はちゃんとしないとな……
そんな事を考えながら、幸せな気持ちでウインドウショッピングを一人楽しんだ。
約束の時間五分前に店に入る。
敦はまだ来ていない様子だったので、レセプションに声を掛け席に案内してもらった。俺が席に着いてすぐ、別の店員に声をかけられた。どうやら敦は既に来店しているらしい。
……なんなんだ?
「塚原様、大下様がお待ちですのでこちらへ…… 」
大下様って誰だ? なんて一瞬考えてしまった。大下は敦の苗字。
俺は案内されるまま別室へと入ると、中には敦が満面の笑みで待っていた。
「敦……? なに? ……その格好」
俺はいきなりここに連れてこられたことや敦の出で立ちを見て、事態がよく飲み込めず呆気にとられる。
だってそれはまるで……
「なんでタキシード??」
そう、敦はタキシードを身に纏い、髪もしっかりと決めてそこに立っている。
一瞬、これから結婚式を挙げる新郎の姿に見えてしまった。そこに実在しない見知らぬ新婦の姿まで敦の隣にイメージできてしまうくらい、その姿は格好良く、そして神聖に見えた。
……なんか嫌だ。
俺は敦の姿に幸せな結婚式の様子が重なり、一気に気持ちが沈んでいった。敦の隣に立つに相応しいのは綺麗な新婦であって、決して俺なんかじゃない……
凄く格好いいのに、なんだかもう見ていられなかった。
「あ! そっか! 仕事になったの? 何か撮影?……ごめんな、飯はまた今度でいいよ」
敦の結婚式を勝手にイメージした俺は胸が苦しくなってしまい、慌ててこの場から逃げようとドアの方へ体を向けた。
訳が分からない。
ついさっきまであんなにも幸せな気持ちだったのに……
もう嫌だ……
パニック。
目の奥が熱い……
敦は俺の知らないどこかの女といずれは結婚してしまうのだろうか。「ずっと一緒に」なんて言ってたけどな。
でも、そりゃそうか。
どう足掻いたって俺は男なんだから。
なんなんだよ、こんなことくらいで泣きそうになるなんて馬鹿か俺は……
どうしようもなく女々しい自分にイラつきながらドアに手をかけると慌てた様子の敦に肩を捕まえられた。
「ちょっと? 何言ってんの? 仕事じゃないから! 撮影でもないから! 悠さんちょっと落ち着けって」
強引に敦の方へ体を向けさせられ、俺は泣きそうになってるのを見られたくなくて咄嗟に顔を伏せる。
「悠さん?……え? ちょっと待って……なんでそんなに辛そうな顔してんだよ。は? 俺、喜ばそうと思ってやってんだけど。勘弁してくれよ」
困惑した表情の敦をチラッと見た俺はどうしたらいいのかわからずに、ごめん……と謝ることしか出来なかった。
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