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相2

 おはようございます。と入ってきた男はやはり女のようにも見えた。 「丞さん人使い荒いですよね……」 若干顔色の悪い男が苦笑いと共に小言を言いながら古坐魅の頬に挨拶のキスをして北洛へ「お久しぶりです」と挨拶した。黒いカーディガンを椅子の背もたれに掛けてコーヒーを淹れる。チャコールグレーのシャツに黒いスラックスを着こなし、長い髪はサイドでまとめられている。 「……どうも、古座見(こざみ)さん」 「藜(れい)でいいですよ。丞さんと読み方一緒なんで」 ニコリと笑う藜に「あぁ」と曖昧に答えた。 どこまでも似ていない。 「藜もそろったから始めようか」 情報共有、と古坐魅は微笑んだ瞬間空気が変わる。 古坐魅は空気を作るのが上手いといつも思う。 「じゃあ、俺から…… 聖護院家は元々貴族だった。 維新で没落後もその体制は変わらず繁栄した家柄だ。婿に入ったのも家柄を選んだ許嫁で仲は夫婦良好。子供も男子だった事から跡継ぎも問題はない。ただ、子供が幼稚園の頃、少し不思議な事をいったらしい」 古坐魅と藜に視線をむけ、再開する。 「「なんで、いなくなったの?」と言ったそうだ。親族が「誰がいないのか」と聞いたが、なんでいなくなったの一点張りで会話にならず、終いには泣き出してその日の夜は高熱を出したそうだ。その次の日には前日に言ったことも忘れてしまった、と聞いている。俺からは以上だ」 古くから勤めていたメイドから聞いた話だ。 家系図は調べられるがそれ以外の内部情報は「口を滑らせて」もらうのが一番効率がいい。 「……興味深いね」 独り言のように呟かれた言葉は仕事向きの声でも、北洛に向けられた言葉でもない。 「じゃ、俺からは補足だけだな。 聖護院家には叶くんの前にひとり子どもがいた。戸籍には記述はない。死産だったそうだ」 叶には知らない姉か兄がいた。というのは初耳だった。 「ただ、今でも本当に「死産」だったかと疑問の声があるらしい……。まぁ、推測かもしれないけどね」 「そう、それはそれは…… 二人ともありがとう。とても役にたちそうだ」 古坐魅の言葉に一息つき、北洛と藜は纏めた資料を手渡した。 「よかった。またなにかわかったら連絡するね、丞さん」 藜が立ち上がると外から玉砂利が軋む音とエンジン音が聞こえた。 「お迎えかい?」 「あぁ、気になる事があってね」 じゃあ、と軽く挨拶をして藜は立ち去った。 外から「晶」と藜の声が聞こえ、そのまま車が発車した。 「……あんたの甥っ子はどういう人間なんだ……」 「ぼくの甥っ子は才能豊かな人だよ」 丁寧に集められた資料を見ながら北洛は冷めたコーヒーを啜った。

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