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黒
何度目かの訪問。
聖護院家へ入るのに壁を感じなくなった。
「司紋さん!丞せんせ!おはようございます!」
目映い笑顔で出迎えてくれる叶に思わず笑顔になる。
「おはよう、叶くん。今日はよく寝れた?」
「……あんまり、だけど夢を見ました」
新しいキーワードがでてきた。
リビングで大人は紅茶を、叶はオレンジジュースを飲みながら話を聞く。いつも親はいない。家のなかにいても話が聞こえない場所にいてもらう。秘密の話は大人も子供も魅力を感じて話しやすくなる。
「いつも、キラキラしてる空なんです。キラキラしてて、ゆらゆらしてて、たまにこぽこぽ音がする。そういう夢だったのに、昨日は違ったんです」
「いつもみているんだね。いつもは綺麗だったけど、昨日はどうちがったんだい?」
「最初はいつもと同じでした。キラキラしてて、こぽこぽしてて……でも、途中から、なにか黒い、怖いものが空に流れてきたんです。キラキラしてた空がどんどん黒い、怖いものに覆われる。逃げなきゃって思った所で起きました」
話おわった叶はオレンジジュースを飲んで一呼吸おく。古坐魅からの質問を待っているその姿に恐怖は感じ取れない。
「なんで、その「黒いもの」から「逃げなきゃ」と思ったのかわかる?」
「……同じになるから。泡になったあの子と同じになるから」
空虚な瞳が古坐魅と北洛の間を見つめる。
「あのこ?」
パチリと瞬きひとつ。
古坐魅の問いかけに首をかしげた。
「話は終わったな。魔法の時間だ」
北洛の言葉に輝く瞳とはじける笑顔の叶を古坐魅は静かに観察する。
「あの子、ねぇ」
少しずつ事態は変化する。子供の心は柔軟で傷つきやすい。だからこそ、記憶のない頃の傷を鮮明に覚えているんだ。
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