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 「魔法の時間」も終わり、聖護院家を後にする車の中。なにか考えるような表情のまま窓の外を眺める古坐魅に感じたことを伝える。 「怖い夢をみたのに恐怖を感じていなかったな」 「あぁ、感じていなかった。恐怖を忘れているようだったな」 逃げる理由を聞いたときの空虚な瞳は子どもがみせるものではなかった。まるで心にぽっかりと空いた暗闇を覗きこむような瞳だった。 「泡になって消えた子、が誰かだな」 目を細める古坐魅に北洛は眉間にシワをよせる。 「家族関係で消えたと表現できるのは、存在を知らない兄か姉の子だが、だとするとなぜ知っているんだ?」 「そうだなぁ。子どもは不思議と胎内にいる間の事を知っていたり、知りえるはずのない事を知っている事がある。事実、そうだとしたら泡になって消えた子を視た時に感じた恐怖を隠してしまったのかもしれない」 稀にあることだ。と吐息と共に言葉を吐き出す。 「稀に、いるんだ「もうひとりの自分」の人生を視る子ども……。とても聡明だったり、その眼に映すものが違ったりするけど、いい子たちばかりなんだよ」 ズレていることが大人にとって恐怖で畏怖で、怒りを憶え、子どもを虐待するまで発展する場合もある。親から離す事、閉ざされた心は凍てつき蕀に覆われて自分も他人も排除するようになることもある。 「……倍生きてる感覚なのか?」 「夢をみている気分だったり、地獄を垣間見る感覚だったり、色々だよ」 地獄を二度味わうこともある。 「難しいな」 「本人もそうだと判る事は少ないようだけどね」 わからない。わからないズレと違和感。大人からの叱責。様々な事で心を閉ざす子どもに会ってきた。閉ざされた心は長い時間をもってほぐす事はできるが回復させることは難しいのだ。 「ほんとうに、それだけでも大変だけどね……」 それだけじゃないのが現実だ。 重い言葉は舌の上で転がして呑み込んだ。

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