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序章

* * *  冬の冷たい空気が、一日の始まりを待っていた。うっすらと白んだ小さな山の中腹、人の手が入りのびのびと枝を伸ばす木々はとうに葉を落としている。  今か今かと朝日が届くのを待つ霜の降りた枯れ葉の絨毯に埋もれるように、軽トラックが一台通れる程度の道がのびていた。葉に紛れて半分以上見えなくなっている轍の先にはログハウスが一軒、静かに佇んでいる。  玄関先には一抱え程の、木目の美しい看板が立てかけられていた。きちんと掲げればそれなりに趣ある風体であるが、雨風に曝されてしわくちゃな「本日休み」と書かれた紙がクラフトテープで雑に貼られていて、持ち主のずぼらさがうかがい知れる。  壁の木目はそれなりの月日を経て馴染んでいて、滑らかな表面がうっすらと射し始めた朝日を反射した。薄闇の中、衣擦れの音もすぐに空気に溶けていく。 「ん……」  男の低い声が朝の静寂を震わせた数秒後、重い落下音と共に短い悲鳴が響いた。 * * *

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