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Proof.1

ここは第3準備室。 表向きは写真部の部室なのだが、暗黙の了解でヤンキーのたまり場と化している場所だ。うちの高校は進学校のくせに、何故か生徒全員に部活を強要しており、拒否できない規則がある。 江ノ島来斗からすれば、そんなバカな、だ。 授業すらサボるのだから、来斗のようなヤンキーたちが、部活など真面目にする筈もない。もちろん言っても聞かない。聞くようならヤンキーなどしていない。 妥協案として、ヤンキーたちの逃げ場に、この写真部が作られた。 ヤンキー『たち』と言っても、三学年合わせても10人にも満たない数なので、学校側も問題さえ起こさなければいいと、写真部を黙認している。 そんなゴミのような場所に、ヤンキーとは真逆の、一生関わる事がないような人物が侵入してきたのだ。学年トップに君臨する王者の登場に、さっきまで緩かった部屋の空気は瞬間冷凍された。 ―――何でこんな所に。 うぎゃ―――と、叫び声を上げなかった自分を褒めたい。王者、由良孝幸の姿を目にした瞬間、来斗は飛び退くように窓際まで後退した。 幸いな事に、仲間の視線は由良に集まっており、来斗の挙動不審な行動に気付いた者はいない。 「邪魔してすみません。江ノ島孝幸くんがここにいると聞いたのですが。」 由良の口から自分の名前が上がり、ビクッ―――と、来斗は体を震わせた。仲間が怪訝な顔でこちらを振り返り、その視線を追って由良が来斗を見る。 由良と来斗の視線が混じった瞬間、火花が散った。 バチバチッ―――と、体の中をもの凄い衝撃が駆け上がる。熱いのか、痛いのかよく分からない感覚だった。 来斗は耐えきれず体勢を崩して、窓枠に背中をぶつけた。ガゴンッと派手な音が響く。 「おい、エノ?」 仲間の不信そうな声が聞こえるが、来斗は答えるどころではない。 視線ひとつで分かってしまった。 ―――こいつが。 由良がアルファである事は、校内でも有名だった。だからずっと近寄らないように、出会わないように、いつも由良の気配を気にしながら行動していた。 しかし、2年間の努力は無に返り、更に悪いことにとんでもない事実を突き付けられた。 ショックで死にそうだ。 「少し話したかったけど、無理そうですね。保健室に行きますか?―――あ、でもボクが触ると逆効果ですかね。」 仲間の見ている前で、由良が意味深な事をペラペラしゃべる。堪ったものではない。 来斗は熱に震える体を叱咤して、老人のように身を屈めながら、由良の元まで何とか進み出た。近づけば近づく程に熱は高まり、目には涙が溜まっていく。 信じられない体の状態に、舌打ちが出る。 「江ノ島くん、大丈夫ですか?」 由良の心配そうな顔に、来斗は目の前のドアを掴みながら、ノロノロと顔を上げた。重力が倍になったかのように体が重い。 同じ人間とは思えない端整な顔に至近距離でぶち当たり、たちまち目が眩む。 フラフラの来斗に対して、由良はいつもと変わらず平然としたものだ。どうやら来斗のような衝撃は感じていないらしい。 近くで見ても、正に『王子様』だった。爽やかを体現しているような由良に、気が遠くなる。 ―――ああ、よりによって。 何故、おまえが『運命』なのだ。

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