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Proof.2

「江ノ島くん、昼ごはんを一緒に食べませんか?」 由良の出した名前に、ザワッと昼休みの教室が揺れる。そりゃそうだ。由良の突発さを身を持ってして知ってしまった来斗だって驚いている。 先日は第3準備室へ、昨日は下校中に、そしてとうとう今日は教室に来やがった。 由良と来斗を交互に見る視線が煩わしく、チッ―――と、舌打ちする。 由良の存在だけで皆の視線は熱さを増すというのに、よりによって来斗を昼メシに誘うなど、注目を浴びない方がおかしい。 「てめぇ、ふざけんなよ。ちょっと、こっち来い。」 由良の腕を引っ張って、来斗は廊下を鬼の形相で進んだ。途中、由良が何人かの生徒から心配そうに声をかけられていたが、ひょうひょうとした顔で手を振っていた。その態度に苛立ちが増す。 適当な空き教室へ、怒りまかせに由良を引きずり込んだ。 「オレに関わるなって言ってんだろ。ぁあ?」 由良の肩を押して乱暴に突き放す。 いや、突き放したつもりだったが、結構な力を入れたにも関わらずびくともしなかった。確かに由良の身長はかなり高いが、筋肉とは無縁のように細く見えていた。意外としっかりした体に、少しドキリとしてしまった自分に腹が立つ。 ―――いや、ドキッてなんだよ。女子か。 「それは無理ですって。ボクたち『運命』ですよ?ちゃんと江ノ島くんの事、知らないと。」 「『運命』とか、知らねえよ。オレは番になる気はねえからな。」 来斗がいくら睨み付けても、由良は穏やかに微笑んでいるばかり。信じられない気の長さだ。こっちばかり騒いで、まるでガキのようだと、急に恥ずかしくなってきた。 「何故です?まだ嫌われるほど、ボクと関わってませんよね?」 「何となくだ。何となく、気に食わねえんだよ。」 来斗は言ってしまってから、なんだそれ―――と、後悔して唇を噛んだ。自分のバカみたいな言葉に、ますます居たたまれなくなり、由良の顔を見れない。 「じゃあ、尚更です。ちゃんとボクを知ってもらいたいです。お互いに理解すれば、より良い関係を築けるかもしれないじゃないですか。」   ―――こいつ、マジか? さっきまでの恥ずかしさは消え去り、マジマジと由良の端整な顔を見つめた。由良は変な事を言っている自覚がないようで、不思議そうに首を傾げている。来斗などと本気で付き合っていくつもりらしい―――と、悟り驚いた。 同時に頭が痛む。由良が理解できない。 「より良い関係になる訳ねえだろうが。おまえ、オレなんか相手にしねえで、もっと似合いのオメガ捜せばいいじゃねえか。『王子様』なんだから、いくらでも寄って来んだろ。」 「―――王子様。江ノ島くんが、そんな風に思ってくれてるって事は、喜んでいいのでしょうか?」 由良が微妙に嬉しそうな顔をして、見当違いな事を聞いてくる。重要なのはそこじゃない。来斗が話した内容はどこへ行ったのだ。 天然なのか。こんなルックスで天然なのか。 「ちげえ。オレじゃねえっての。他のヤツが言ってんだよ。知らねえのかよ。」 「さあ、知りませんが。」 何故か途端に興味を失ったようで、由良は素っ気なく言う。来斗と食い付き所が違いすぎて、会話が思うように進まず、再びジワッと苛立ちが沸いてくる。 「とにかく、オレは―――」 「江ノ島くん。さっきの言い方だと、随分と自分を下に置いているようですが、」 ―――当たり前だろうが。 由良は全国でもトップ10に入るほどの秀才で、陸上の大会に出ればあっさりと優勝をもぎ取り、『王子様』と雑誌に載るくらいの顔面レベルが半端ない。 対して、来斗は成績は下から数えた方が早いし、スポーツは普通程度で、オメガにしては可愛さの欠片もない厳つい容姿だ。 卑下するつもりはないが、釣り合いが取れていないのは一目瞭然。 「ボクは、江ノ島くんをきちんと知りたいと思います。」 「あのなぁ―――」 来斗の事を知って、やっぱりダメだ、などと言われたら、こっちはどうすればいいのだ。 勘弁してくれ―――と、来斗は天を仰いだ。

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