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恋に堕ちる
「さて始めるぞ、今日は伊勢物語の二十三段だ」
男子生徒だけの教室。
乱れた机の間を水嶋先生が古典の教科書片手に朗読しながら巡回している。先生が俺の机の傍に近づい来るだけで、ドキドキと胸が高鳴った。
「では後に続いて『筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに』」
※伊勢物語23段『筒井筒』
うぉ~先生の声、めちゃ可愛い!反則だろ。
ずっとどんな声で話すのか、どんな仕草をするのか知りたかった。
どんどん叶っていく。
先生が高校を卒業してから通学路ですれ違わなくなり、ずっと行方を探していた。でもこの高校で待っていたら、きっとまた会えると信じていた。
俺、受験、頑張った甲斐あったな。
しかしこの伊勢物語の幼馴染の二人って、男同士だったらどんなにいいだろう。俺と先生は歳の差があるが、俺はずっと先生のことだけを考えて成長してきたからな。気持ち分かるんだよな。古典は大っ嫌いだけど、水嶋先生が教えてくれるのは別格だ。
俺にはじれったい恋なんて性に合わない。
早く先生に告白したくてウズウズさ!
だからどんどんアピールしていくぞ!
「先生っ質問!」
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放課後の掃除の時間って最高だ。
先生と二人きりとはいかないが、かなり近い距離にいられるからな。
「なぁさっき思ったんだけど、先生の声って可愛いよな」
精一杯大人ぶって先生に囁くと、先生は頬を少し染めた。その様子にもしかして少しは脈があるかもと期待が高まる。
もっと俺のことを知って、早く先生も俺に惚れてくれよ!
俺の中の若い血が、どんどん騒ぎ出す。
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